from Asia


牛嶋直美の「亜細亜くいだおれ」 その2
ダイコン好きで悪かったわね

n.ushijima
うしじま・なおみ
からだの組成の87%が
チューカでできている
ちゅーか。残りの13%は
タイ、ベトナム、インド料理で
できてるちゅーか。




昨年から今年にかけ、大家族の香港人家庭にずっぽりうずもれたり、婦人警官宅にやっかいになったりして1年と少しを過ごした。その間私は髪の先から爪先まで、中華三昧な日々を送ることになった。

間違いなくそのおかげだろう。ガツやミノやセンマイを、今ではとてもおいしく食べられるようになっている。

香港に住み始めた当初は苦手だった。だからその日の夕食時、食卓に並んだ「豚ガツと芥菜(がいちょい)の煮物」を見た途端、なるべくならへんなもの(ガツ)は避けて、と、私は瞬間的に思った。しかも、隣の川魚の蒸し物は少々泥臭い。

そんなわけで私は、たまたまスープの具に使われていたダイコンばかりを食べることになった。その様子を見ていたジャッキーは、神妙な顔をして、しかし興味深げに口を開いた。

「先生の言った通りだ」

彼は、スポーツと音楽が好きで勉強が嫌いな典型的香港人高校生だが、なぜか妙に感動した面持ちである。

「なんだこいつ」と私は思ったが、、相変わらずスープの器からダイコンを箸ではさんでは取り、食べ続ける。

彼は私にもわかるように、簡単な英語で話し始めた。先生がジャッキーたち生徒に教えた内容はこうである。

「日本人はみなダイコンが大好きで、ダイコンを刺して食べやすいよう、日本の箸の先はとがっているのだ」

そ、そんなばかな話、あるもんか。

しかし驚いたことに、温(わん)家の家族は皆、これをごく当たり前と思っていた。先生が話した事実より、実はそっちのほうが問題かもしれない。彼らは、日本人が「箸で食べ物を刺す」のを行儀悪く感じることなどまったく知らなかった。

香港には日本人へ対する蔑称で「蘿白頭」(ろーばったう=ダイコン頭)という言葉がある。語源は、日本人がやたら「ダイコン好きだから」。つまりこれは特別な感情ではなく、ごく一般的香港人の認識といえるようだ。

青紅蘿白痩肉湯(つぇんほんろーばっさうよっとーん=ダイコンとニンジンと豚赤身肉のスープ)は、香港で最もポピュラーな漢方スープのひとつ。漢方スープといっても、私たちがその名を聞いて考えるほどには薬っぽくもなく、日本でいうならお味噌汁みたいな感覚のごく日常的なメニューだ。

ダイコンとニンジンと豚赤身肉はあくまでダシとして使い、メインはエキスのたっぷりつまったスープのほう。その他、漢方にすこし関係のある材料として、蜜棗(まっちょう)と呼ばれる乾燥果実と杏仁(はんやん)を加え、そのままフタをして3〜4時間。ただただ弱火で煮込めばできあがりだ。味付けはほんの少しばかりの塩を少々。

ちなみにニンジンは、紅蘿白(ほんろーばっ)、赤いダイコンという。

ただ単に「おいしい」という理由から、その後も香港にいる間、しょっちゅうこのスープを自分で作って食べた。食べてるとき、ジャッキーの言葉通り、やっぱり日本人だからダイコンが好きなんだろうか、なんて考えたりすることもあった。

結局、その日の私は「日本人だからダイコンずき」と勘違いされたまま、食事を終えた。おもしろくはなかったが、言い争うのは面倒だった。私は今も日本のスーパーでダイコンを見るたび、この日のことを鮮明に思い出す。彼を含む温家の人々はたぶん未だ勘違いしたままだろう。それもまたおもしろいか。


豚ガツとがいちょいの煮物

煮物とスープがおすすめのお店

潮鴻城酒樓(ちうほんしんじゃうらう)
MTR(地下鉄)ちゅん灣駅のちゅん灣廣塲(ちゅんわんごんじょう)にある。潮州料理のお店です。飲茶もあって、「豚ガツと芥菜(がいちょい)の煮物」が食べられます。

大満貫(だいむんがん)
MTR九龍灣(がうろんわん)駅そば。香港ファストフードのお店ですが、例湯(らいとん=本日のスープ)が気軽に食べられるのでおすすめ。お昼と夜のセットメニューが人気。例湯は日替わりですが、ときどきダイコンのスープも。

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