毎日こう暑いと、無性に亀ゼリーが食べたくなる。
広東語では「龜苓膏」(くぁいれんこう)。ゼリーといっても、香港では漢方薬という概念のほうが強い。主な効能は、体内の毒素を外へ出し、体の熱を取ること。見た目はその名の通りゼリー状。色は、限りなく黒に近いこげ茶色だ。
中心となる材料は、金銭亀(かむちんくぁい)という特別な亀の亀板(くぁいばん)。これは甲羅ではなく、お腹の皮のことで、生の伏苓(日本語ではブクリョウ)や数種〜数十種の漢方薬とを一緒に煮込んで冷まし、ゼリー状にして食べる。寒天だのゼラチンだのを使って固めるわけではなく、ある一定のレシピを煮込んで冷ますと自然と固まるのだそうだ。
中国デパートで見ると、生きた金錢亀は1匹何千香港ドル(1香港ドル=約17円)もする。だから泥棒だって黙ってはいない。過去には亀ゼリー屋が襲われ、宝石泥棒ならぬ金錢亀泥棒が新聞をにぎわせたこともある。
一般的に乾燥した亀板を使うが、なかには生の亀板とその肉まで使う店もあり、また、一緒に煮込む漢方薬の配合も微妙に異なるため、味はさまざま。香港ではとてもポピュラーだが、決してデザートのように甘くておいしいわけではなく、どちらかというとやや苦め。砂糖やシロップをかけて食べるのが一般的だ。
似たような食べ物で「涼粉」(りょんふぁん)もあるが、こちらは涼粉草という植物を使ったゼリーで、台湾の仙草ゼリーと基本的に同じ。やはり体の熱を取る効果はあるが、亀ゼリーほどに薬的感覚はない。
店内に小さな水槽を作り、実際に金銭亀を見せながら食べさせたり、亀を模した蒸し器で温めたりと、亀ゼリー屋の演出はひどくプリミティブだ。日本人からはグロテスクにも見えるが、香港でそれは「本物らしい」と結構人気が高い。
亀ゼリーには、蒸し器(セイロとは違う)で温めた「熱」(いっ)と、冷蔵庫で冷やした「凍」(とん)とがある。私は食感が少しやわらかく感じる「熱」のほうが好きだが、効能は特に変わらないそうだ。
冷やしたものはあっさりと食べられ、確かに喉越しもいいけれど、私にとっては、冷たいと「デザート」を思い起こすことと、レンゲを入れるときにやや固い感じがして、なんとなく違和感がある。
香港人が期待する「毒を出す」や「体の熱をとる」効能は、湿度が高くべたつく暑さの香港ではとても重要なことと感じた。そう、彼らは涼をとるためにも亀ゼリーを食べるのだ。
コンビニにはプラスチックケース入りや、缶詰の亀ゼリーが売られ、漢方薬局にはインスタントの粉末もあって、それはもう、どこででも結構気軽に食べられる。とはいえやっぱり人気は専門店の亀ゼリー。味も量もまったく違うし、香港人はその「本物っぽさ」にやはり効能の是非を感じるのだと思う。
温(わん)家で唯一日本語を操るジョイスとは、しょっちゅう一緒に出かけたが、帰り道には決まって、亀ゼリー屋に寄った。ほとんど喫茶店のような感覚だ。時間さえあれば2日続けて食べることもしょっちゅう。ときには大き目の器に入ったものをひとつずつ、また、食事してお腹がいっぱいならば、ひとつの亀ゼリーをふたりで分けて食べることもあった。
スイカやかき氷もおいしいが、私にとって夏はやっぱり亀ゼリーなのである。

くぁいれんこう
金銭亀が見られる亀ゼリーのお店
海天堂(ほいてぃんとん)
店内の小さな水槽(といってもオリみたい)に、金銭亀がうようよ。テレビCMもやってる有名専門店。ここの亀ゼリーはほとんどクセがなく、お好みできび砂糖のシロップかグラニュー糖をかけて食べる。材料には生の亀板、亀の身、さらにはスッポンも入っていると聞いた。佐敦(じょーだん)や灣仔(わんちゃい)などにある。
恭和堂(ごんうぉーとん)
濃い目の味の亀ゼリー。ややにがめ。ここでもときどき金銭亀が見られる。ただし、利用しているのは乾燥した亀板とのこと。グラニュー糖を少量かけて食べる。「熱」専用の蒸し器は、金色で亀をかたどっている。旺角(もんこっく)や銅鑼灣(コーズウェイベイ)に支店あり。