香港で、一日に一度は必ず食べる一皿があった。それが、油菜(やうちょい)だ。
油菜は広東語で茹でた青菜のこと。茹でただけの青菜になんで「油」の文字がつくのかというと、これには一応理由がある。
香港では、沸騰した湯に油を加えて青菜を茹でる。こうすることで湯の温度が上がり、また少量の油のせいで表面がつやつやと色鮮やかに仕上がるからだ。
さらに、味付けにも油を使う。水気を切り、皿に盛ったあとで、オイスターソースと一緒に油を回しかける。この油が、おいしさの決め手になる。
通常、油菜にするのは菜心(ちょいさむ)という青菜。これは香港で一年を通して手に入る青菜のことで、茎の太さはグリーンアスパラガス、茹でたときの食感はブロッコリの茎に近い。
葉は濃い目の緑、中央に小さな黄色い花をつける。その名前の語感と花の色から、「香港の菜の花」や「香港のアブラナ」などといわれるが、味はまったく別もの。日本の菜の花のように苦みはなく、ずっと食べやすい。
街の粥麺専家(ちょっみんちゅんがー=粥と麺の専門店)へ行けば、店頭の大鍋で、油菜を作る様子を簡単に見ることができる。
ぐらぐらと煮立った鍋に、根元をひもでぐるりと縛った菜心(※ひもで縛らない店もある)をひとつかみほうり込んで、ひと茹で。水気を切ってひもをほどき、半分の長さにパチンとハサミを入れて皿に盛り、オイスターソースと油をかけてできあがり。
盛り付けには、暗黙の決まりがある。葉の部分を下に敷き、その上に長さをそろえた茎を整然と並べる。メインはあくまで茎のほうだ。レストランが高級になるほど、その傾向はますます顕著。
店によっては葉を出さずに、葉の根元から下約9cmばかり、茎のやわらかい部分だけを皿に盛ることもある。「よい部分だけを出す」ことがひとつのステイタスになるわけだが、私は葉の部分のほうがずっと好きなので、そういうときには少し損した気分になった。
店に入り「油菜をください」というと、ほとんど菜心が出てくるくらい一般的なのだが、実際は青菜にも季節によってたくさんの種類があり、同じ調理法で意外にいろいろな味が楽しめる。
芥蘭(がいらん)は菜心に似た青菜で、菜心よりもっと茎が太く、花は白い。生菜(さんちょい)はレタス。最近でこそサラダもポピュラーだが、香港ではもともと生の野菜を食べる習慣がなく、今でもレタスは火を通して食べるのが一般的だ。この生菜には細かく分けると2種類あって、西生菜(さいさんちょい)がレタス、唐生菜(とんさんちょい)はサニーレタスのこと。
白菜(ぱっちょい)は、日本の白菜とは違い、青梗菜を小型にしたような形をしている。長さ5cm程度の小さな青菜で、茎の色は白。店によって小白菜(しうぱっちょい)や白菜仔(ぱっちょいちゃい)と呼ぶこともある。日本の白菜と同じものは紹菜(しうちょい)といい、もっと大きな白菜は津菜(ちんちょい)。
菠菜(ぽうちょい)はホウレンソウ、韮菜花(がうちょいふぁー)は花ニラのこと。
私が暮らしていた温(ワン)家の食卓にも、毎日油菜が出た。茹でる青菜は、菜心とレタスがほとんど。家で作るときはいつも、青菜を長い時間水に浸けておき、一本ずつ、または1枚ずつ丁寧に洗った。「農薬がたくさん付いているからね」というのが、その理由だった。
親族が集まっての食事会があると、青菜を大量に茹でる。菜心なら1斤半(約900g)、レタスなら3〜4個ほども使う。大皿に盛り、わいわい大声でしゃべりながらそれぞれの箸でつつく。日本の静かな食卓とはまるで違う、それはそれはにぎやかな時間。
外でも食べるが、毎晩の食卓、また特別な食事会にも欠かせない。
いつでもテーブルにある油菜こそ、香港家庭料理の名脇役なのである。

ちょいさむ
油菜がおいしいお店
福臨門海鮮酒家(ふっらんむーんほいしんちゃうがー)
日本だけでなく、世界的に有名な高級広東料理店。フカヒレやアワビなど高級乾燥素材を使った料理で有名。夜、海鮮料理を食べに行ったらかなり高価ですが、お昼の飲茶(やむちゃ)なら、リーズナブルに食べられる。
そして飲茶のお供には、もちろん油菜。ここんちは、青菜のいいとこしか使いません。茹で加減はシャキッとしていて美味。お店は、尖沙咀(ちむさあちょい)と灣仔(わんちゃい)にあります。
麦文記(まっまんげい)
雲呑麺(わんとんみん)で有名な麺専家(みんちゅんがー=麺の専門店)。入り口を入ってすぐ左側が厨房になっていて、ここでは大鍋で菜心を茹でて油菜を作るのが見られます。佐敦(ジョーダン)にあります。