from Asia


牛嶋直美の「亜細亜くいだおれ」 その9
上海蟹より、ふぁーはいですって

n.ushijima
うしじま・なおみ
からだの組成の87%が
チューカでできている
ちゅーか。残りの13%は
タイ、ベトナム、インド料理で
できてるちゅーか。




秋の香港といえば上海蟹。

上海蟹は中国杭州にある洋澄湖で獲れる淡水蟹。広東語では上海蟹(しょんほいはい)とは呼ばず、「大閘蟹」(だいちゃっはい)の名で流通する。高価だがミソはおいしいし、引き締まった身は確かに珍味と珍重されるのもわかる。しかし、広東地方独特の海の蟹もなかなか捨てたもんじゃない。

私の好きな蟹のひとつに花蟹(ふぁーはい)がある。上海蟹が上海料理に数えられるのに対し、この花蟹は潮州料理のひとつだ。

潮州料理というのは、広東省東部の韓江下流地域で生まれた料理。海に近く、温暖で肥沃な土地に恵まれて発展したものだ。一説では広東料理のルーツになったともいわれ、フカヒレやツバメの巣、乾燥アワビなどの高級食材を生かした料理も有名である。

だが、中国広東省の地図に「潮州」という地名はどこにもない。実は潮安市の旧名が潮州。ハンカチなど刺繍で有名な汕頭(スワトウ)は、ここに隣接する都市だ。

花蟹は、一般的に「凍花蟹」(とんふぁーはい)というメニューで食べる。これは花蟹を茹でて冷やしただけのしごく単純なもの。

冷蔵庫がなかった昔、漁師が獲りたての蟹を新鮮なうちに茹で、冷まして食べたのがこの料理の始まり。うまさを長持ちさせた昔の人の知恵は、現在もそのまま香港の食卓に生きているのだ。

潮州料理店へ行くと、厨房にはこの鮮やかな花蟹が飾られている。吊り下げられている場合もあるし、皿に山盛りになっていることも。オーダーすると、卓に付いた人数に見合う大きさの一杯を、そのなかからおもむろに取り、ナタのような中華包丁を使いバンバンとリズミカルに解体する。もちろん殻ごと叩く。まな板の上でバラバラになった身は、ジグゾーパズルのように元の形に戻され、大皿の上でどうどうとその勇姿を見せることになる。

甲羅は厚く、非常に固い。全体に花をちりばめたような鮮やかな文様があり、花蟹の名はその美しい柄からついた。おもしろいことに、身の外側も甲羅とほぼ同じ。殻を剥いても外側だけが朱と白の鮮やかな花柄で、これまた大変に食欲をそそるのだ。

上海蟹に比べると全体がかなり大ぶり。そのために大味と誤解されるのだが、これが意外に繊細な味。香港では通常黒酢に付けて食べるが、私はそのまま何も付けずに食べるのが好きだ。ほんのり薄い塩味がついていて、弾力のある身はかんでいるうちにだんだんと甘みが出てくる。

旬は身の締まる春だといわれるが、香港では一年中この蟹を食べることができる。また、上海蟹同様花蟹も体を冷やすので、食べ過ぎは厳禁だ。蟹と一緒に冷たいビールを飲みすぎないことも肝心である。


とんふぁーはい

潮州料理のお店

金島燕窩潮州酒楼(かむとういんうぉーちうちゃうじゃうらう)
尖沙咀(ちむさあちょい)の加拿芬道にある高級潮州料理店。凍花蟹はもちろん、伝統的な潮州料理が食べられる。お皿がいちいち金属の台に載ってくるので、高級感あり。この他おすすめは、發財巻(ふぁっちょいぎゅん)。これは髪菜(ふぁっちょい)という、黒いもずくに似た海藻を湯葉で巻いて揚げたもの。

創發潮州飯店(ちょうふぁっちうちゃうふぁんでぃむ)
九龍城にある、庶民派の潮州料理店。茹でて大皿に載せた魚や蟹、下ごしらえの済んだ料理がオープンキッチンをぐるりと取り囲むように並ぶ。この「打冷」(だーらん)という、昔の潮州人漁師たちの食習慣が身近に楽しめる店。広東語しか通じないが、近くのテーブルを見て「あれくれ」「これくれ」と、指差しで注文すれば問題なし。今はなき啓徳空港はこのすぐそばにあった。


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