「亜細亜くいだおれ」 October 13,1998
やむちゃ作法、これが決定版

牛嶋 直美
ウシジマ・ナオミ
からだの組成の87%がチューカでできているちゅーか。残りの13%はタイ、ベトナム、インド料理でできてるちゅーか。
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香港には飲茶(やむちゃ)という食事の方法がある。

中国茶を飲みながら蒸し餃子や春巻きなどの点心を食べる食事のことで、香港人には絶対欠かせない特別な習慣だ。

お休みの日は決まって、家族揃って飲茶へ出かける。家族で、あるいは親戚一同が電話で連絡を取り合い、真面目に相談して店を決め、家族のなかから何人かが早めに席取りに出発する。

飲茶の時間はレストランで予約を受け付けないのだ。

席取り要員がレストランの受付へ人数を告げると、その人数に合わせたテーブルへ案内される。すでに店が混んでいる場合、予約番号が書かれた券をもらい、店の前でひたすら待つことになる。

どこの家族も休日はたいてい飲茶に出かけるので、皆なんとか早く席をもらおうと工夫する。例えば人数を告げるとき、席取り要員がそれぞれ別の客のふりをして、「4名」「10名」など、まったく違う適当な人数を告げて予約番号をもらうのだ。それが実は8名でも12名でもこんな調子。レストランでは6名程度までの小人数と、10名以上の大人数で予約を別に分けて取る場合が多いからだ。

実は、工夫といってもみんなが結構この方法を試すものだから、実際に呼ばれる番号はもらった券の番号よりかなり早い。客自身もそれは了解済み。予約人数が多く店に人が並ぶのは景気がよく評判がいい証拠。店のほうも、暗黙のうちにこれを受け入れているところがある。

テーブルの大きさは人数に合わせその場ですぐ変えられるので、人数の変更などまったく問題ではない。

香港のレストランのテーブルは基本的にベニヤ板。

4人がけ程度の小さなテーブルの上に丸いベニヤ板を乗せ、上からクロスをかける。人数によってその板の大きさを替えるので、テーブルは大小自由な大きさにできる。つまりテーブルさえ確保すれば、「人数が増えた」あるいは「減った」といって、板の大きさを替えてもらうのはしごく簡単なこと。

温(わん)家の家族がおもしろがって、居候の私を席取り要員に任命することがあった。

広東語が苦手といっても予約番号くらい聞き取れる。外国人の私としても、家族からごく当たり前に香港人の家族っぽく扱われるのは、一人前に扱われているような気がしてうれしい。

しかし実践の場では、よく聞き取りミスをした。例えば20は通常広東語で「いーさっぷ」というが、香港人はなぜかこれを「やー」と発音する。そんなスラングは、日本で通った語学学校では習わなかった。もちろん家族もそのくらいは了解済みで、実は席取りも常に兄弟か従兄弟たちのお守りつき。私はいつまでたってもひとりでまかせてはもらえないのだった。

さて、テーブルにつくとまずお茶を頼む。普洱(ぽーれい)、壽眉(さうめい)、香片(ひょんぴん=ジャスミン)、菊花(ごっふぁー=菊の花のお茶)、菊普(ごっぽう菊の花入り普洱茶)、龍井(ろんじん=中国の緑茶)など、その種類はさまざま。香港人が好むのは、普洱と壽眉が多い。うるさい人になると、2種類を頼み、さらにお湯だけを頼んで、混ぜて飲む場合もある。

いずれにしても飲茶のときは、とにかくお茶。テーブルの上にビールが乗っていたら、まず外国人のテーブルと思って間違いない。

お茶の種類も豊富だが、点心の種類は、日本で知られているよりずっとたくさんある。

平均して日本人の友達が好むのは蒸した餃子系、そして香港人の友達が好むのは、イカ、豚肉、鶏の足先、センマイ(牛の第2胃袋)など、素材をそのまま煮込んだり蒸したりした点心が多かった。

温家の飲茶では、ママがすきな鳳爪(ふぉんちゃう=鶏の爪の蒸しもの)、叉焼飽(ちゃーしゅーぱお=チャーシュー入り饅頭)、珍珠鶏(ちゃんじゅーがい=小さめのチマキ)、牛柏葉(んあうぱーいっぷ=センマイの蒸しもの)、蒸魷魚(ちんやうゆぃ=イカの蒸しもの)、煎腸粉(ちんちょんふぁん=米の粉を蒸して作ったクレープを巻いて棒状にし、焼いたもの)を必ず注文した。

パパには嫌いなものがなく、二女のレミは揚げものが好き、四女のジョイスは叉焼も饅頭も好きだが、なぜか叉焼飽が苦手だった。

日本人の友達と飲茶へ行くと、如実に頼むものが違っておもしろかった。テーブルの上はたいてい蒸した粉もの(餃子や饅頭)がメインになる。

もちろん私も蒸した粉もの、特に餃子は大好きだ。

蒸し餃子のなかで私が特に好きなのは韮菜餃(がうちょいがう=ニラギョウザ)。浮粉で作る半透明のぷるぷるした皮に、鮮やかな緑のニラがうっすらと見え、それはもう食欲をそそる一品だ。

具は細かく刻んだニラがメインで、ニラをサポートする具は、エビ、豚肉、シイタケ、タケノコなど。香りの強い野菜がすきな私としては、これこそが飲茶に欠かせないメニューのひとつだった。

韮菜餃は基本的にしっかり味がついているので、やたらと醤油をつけないで、一度食べて味を確認してから調味料を使うことをオススメ。紅醋(ほんちょう)と呼ばれる赤酢だけをつけて食べるのが、地元香港風である。

香港人にとっての飲茶は、食べるだけが目的ではなく、家族でのコミュニケーションが第一に来る。だから食事中のテーブルは、どこも驚くほどうるさい。

うるさいテーブルで、出来立てあつあつの点心を、はふはふいいながら食べる。はふはふいいながら食べ、ごくごくお茶を飲む。

これこそ至福の瞬間なのだ。


がうちょいがう

韮菜餃が食べられる飲茶のお店

大會堂酒楼(だいういとんちゃうらう)
シティホールの名前で知られるレストラン。中環(ちゅんわん=セントラル)のスターフェリー乗り場近くにある。とにかく広くていつも混んでいて、えらく景気のいい気分になる。お昼になると混雑するので、11時すぎには行くこと。
香港人と一緒に予約するのも楽しいが、番号は基本的に広東語。券をもらった場合は「この番号は英語でいって」と伝えること。おばちゃんがワゴンで「叉焼飽(ちゃーしゅーぱお)〜!」とか大声でいいながら点心を運んでくる。いかにも、日本人の私たちが考える「香港!」のイメージ。

敍香楼酒家(ちょーいひょんらうちゃうがー)
尖沙咀(ちむさあちょい)のハイアットリージェンシーの裏通りにある広東料理のレストラン。お昼どきはOLとサラリーマンでいっぱい。ここは基本的にワゴン形式ではなく、メニューを見てオーダーする方法。わからなければ二人世界(いーやんさいがい)といえば(といっても、この通り読んでも通じないので書いて見せたほうが得策)、ふたり分の点心をテキトーに見繕って持ってきてくれる。


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