「亜細亜くいだおれ」 December 22,1998
緑豆デザートに首っ丈

牛嶋さんのイラスト 牛嶋 直美
ウシジマ・ナオミ

からだの組成の87%がチューカでできているちゅーか。残りの13%はタイ、ベトナム、インド料理でできてるちゅーか。
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緑豆(日本語でリョクトウ)は、モヤシや春雨の原料としておなじみ。その意味では日本でもよく食べられている一般的な食材だが、豆自体となると、なんとなく影が薄い。

外の殻の部分がややくすんだ緑色で、その色から緑豆の名前がついた。殻をむくと中身は鮮やかな黄色。これだけ見ると黄豆と呼んでもいいくらいだが、広東語で黄豆(うぉんたう)は大豆を指す。豆も、外観が大事なのだ。

香港で緑豆(広東語ではろったう)はお汁粉の材料。海藻などと一緒にことこと煮込んだお汁粉は、「おふくろの味」として、昔から人気があるデザート。そしてこのお汁粉を「緑豆沙」(ろったうさー)という。

日本でお汁粉といえばアズキを思い浮かべるが、香港では、紅豆(ほんたう=アズキ)だけでなく、芝麻(ちーまー=黒ゴマ 、※このコラムの第1回で触れてます)、合桃(はぷとう=クルミ)、杏仁(はんやん=アンニン)、百合(ぱっはぷ=百合根)、蓮子(りんじー=蓮の実)など、その材料はいろいろ。

お汁粉になると素材の後ろに必ず「沙」(さー)、「茶」(ちゃー)、「糊」(うー)、「露」(ろう)などの漢字がつく。「緑豆沙」(ろったうさー=緑豆のお汁粉)、「杏仁茶」(はんやんちゃー=アンニンのお汁粉)、「芝麻糊」(ちーまーうー=黒ゴマのお汁粉)、「合桃露」(はぷとうろう=クルミのお汁粉)などがその例。素材によって仕上がりの状態が微妙に違うため、使う文字も違ってくるのだ。

ただし、後者の2つの文字は同じように「ペースト状のとろとろした状態」を指すので、「合桃糊」(はぷとううー)など、違う漢字を使う場合もある。

これらのお汁粉をまとめて「糖水」(とんそい)と呼び、温かいまま、またときには冷蔵庫で冷やして食後のデザート、おやつや夜食に食べる。昔に比べると家でつくることは少なくなったが、そのかわり専門店ができたりして、今もなお、とても当たり前に食べられている。老いも若きも女も男もまったく関係なく、みんなが、ごく日常的にお汁粉を食べるのだ。

その「緑豆沙」ずきの代表といえば、ジャッキー・チェン。インタビュー時に本人から聞いた話だが、彼は三度の食事より「緑豆沙」が好きで、家の冷蔵庫に「緑豆沙」があると、一日中食べたくて落ち着かなくなるそうだ。ご家族からは「行儀が悪い」とあきれられながらも、冷蔵庫の前で大きな保存容器を抱え、そのまま食べてしまうこともあるという。

そして「僕の健康の秘訣は、緑豆沙なんだよ」と、真顔でその話を締めた。そういえば、尖沙咀(ちむさあちょい)にあるデザート専門店では、よく糖水を食べるその姿が目撃されていた。よっぽど好きなのだろう。

「そんなにおいしいものなら」と、香港のいたる場所で「緑豆沙」を食べてみた。緑豆は煮込むと茶とグレイが混じったような「にごった色」になり、妙にどろどろとした食べ物になる。日本人の私にとっては、なんだか見た目も悪いし、ジャッキー・チェンが目の色を変えて話すほど、そんなにおいしいとも思わない。ただ、緑豆にはカリウムやコリンなどのミネラル、またビタミンが豊富で、確かに体にはいいらしい。

台湾のコンビニでは、その名前にひかれて「緑豆奶」(広東語読みは、ろったうない=緑豆ミルク)なんて飲みものまで試してみたが、結局私に緑豆はそこまで魅力的な味ではないのだな、という結論に達した。

その私が、ある日突然、緑豆の糖水の味に目覚めてしまった。

その日私が食べたのは、広東(かんとん)風のものではなく、潮州(ちうちゃう)風の糖水。広東風が「殻つきの緑豆」を使うのに対し、潮州風は「殻をむいた緑豆」を材料にする。すると、メニューの名前も変わり、「緑豆爽」(ろったうそう)となる。

名前は似てるが見た目はまったく違うもの。先述の通り、緑豆は殻をむくと鮮やかな黄色になる。「緑豆沙」が、にごったどろどろの溶液なのに対し、「緑豆爽」はその黄色い豆を透明なシロップで煮たもの。「なんだ豆を煮ただけか」といわれればそれまでだが、「どろどろ汁粉」ばかりを見てきた私の目には、非常に上品な印象のデザートだった。豆はこりこりとその食感を残し、シロップはあくまでさらりとしている。

しかし多くの香港人にとっては、やはり潮州風の「緑豆爽」よりも広東風の「緑豆沙」が人気。「緑豆沙」は専門店へ行けばそれだけを食べることが可能だが、「緑豆爽」を食べたいときは、潮州料理店へ行き、まずは最初に食事をしなければならない。「緑豆爽」だけが食べたくても、それを食べる頃にはほぼ満腹になっている。

なんだか不公平だ。ジャッキー・チェンを笑えないほどこの味に目覚めてしまった私としては、急に「食べたくて食べたくてたまらなくなった」ときがつらい。

なんとか「緑豆爽」だけを食べることができないものかと思い悩んでいたら、街市(がいしい=公共の市場)の乾物屋で、殻をむいた緑豆を見つけた。それから私は、この「緑豆爽」を家で作ることにしたのだった。今では食べたいときにいつでも食べられるから、ひと安心である。

ひとつでも多くの味、おいしさを知ることが私の喜び。このてん末をいつかジャッキー・チェンに伝え、「ひとことお礼を」と願う今日このごろである。

「緑豆爽」
私が作った潮州風の「緑豆爽」


緑豆爽が食べられる潮州料理店

潮州城酒楼(ちうちゃうしんちゃうらう)
香港だけでなく、広州にも支店をもつ潮州料理のチェーン店。オーナーは、若い頃にお金が入るとひたすら食べ歩きをし、勉強して回ったそうだ。私はこの店の尖沙咀東部の支店で、「緑豆爽」の味に目覚めてしまった。砂糖と黒酢をかけて食べる、デザートのような焼きそばも人気あり。この店の「緑豆爽」は、見た目も味も上品でわりと洗練された印象だ。

創發潮州飯店(ちょうふぁっちうちゃうふぁんでぃむ)
潮州料理というと毎回ここばかり勧めていて恐縮だが、私が好きなもんだからご了承を。九龍城にある店で、海鮮料理も食べられるが、潮州風家庭料理が特に人気。 ここでも「緑豆爽」は食べられるのだ。この店のはすこし家庭の味っぽい感じで、清心丸(ちんさんゆん)という、日本でいう「ぎゅうひ」のようなものが入っている。


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