| 「亜細亜くいだおれ」 February 16,1999 | |||
| シドニーで大鮑シャブ | |||
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ここはタスマン海から南太平洋をめぐる船旅取材の乗り替え地。「初シドニー」の感激を実感する間もなく、空港から、シドニー港に停泊する客船へと直行する。「有名なオペラハウスはどこ。せめてひと目見せてくれ〜」と騒いでたら船の向こう側にきちんと存在していた。なんとなく自分のいやしさに頬が赤らむ。 「乗り換えだけ」と聞いていたので市内探検などとても無理と諦めていたが、お昼すぎには客船へのチェックインが無事終了。出航するまでの約5時間を「自由にしていい」とうれしいお達しが出る。 あわてて当地へ住む友人に「右も左もわからないが」と前置きし、とにかく会ってと懇願する。道でもらったフリーマップで、大体の場所を把握し、船から歩いて5分ほどの、ロックスにあるホテルロビーで待ち合わせ。彼女の赤のコンバーチブルでそのままシドニー探検へ向かうことになった。ちなみに、このとき私の所持金は、A$3.1(約248円)。 シドニーで最初に訪れたのはチフレイタワーで、ここは話題のシドニーIOCが入居する、バブリーな金ぴかオフィスビル。休日の豪華な高層オフィスから、オペラハウスを中心に広がる美しい景色を、目に焼き付ける。ケン・ドーンの書く絵、そのままなのにびっくり。しかしIOC、さすがいい場所にあるよなあ。 「カナダと同様に香港からの移民が多いから、シドニーのチャイナタウンは香港よりもおいしいっていうよ」。ガラスにへばりついている私に、オーストラリアに住み着いて12年のOちゃんが続ける。「おすすめは鮑のしゃぶしゃぶ。ぐふふ」。 出張先の食事は最重要課題である。今回シドニーで食べる最初で最後の食事はどこにするか。これは本日もっとも大切な問題だ。 最近注目されるモダンオーストラリアンキュイジーヌとワインにも惹かれていたが、「香港よりうまい」といわれたら黙っちゃいられない。今回唯一の食事はチャイナタウンで食べることに決定する。 赤い柱、飲茶のワゴン、大きな話し声でざわめく店内、なるほど、ここは香港のテイストでいっぱい。ときおり聞こえる店員同士の雑談もしっかり広東語だ。でも、スペースはだいぶ香港より広く、ずっと清潔な感じ。乾いた気候のせいか。 通常、昼は飲茶タイムという。だが、昼もアワビシャブシャブは作れるというので早速オーダーする。「その後のスープで食べる雲呑麺がうまい」というOちゃんの提案があり、流暢な英語で注文してもらう。 ところが、これが通じないのだ。 「シャブシャブした後で、ヌードルとダンプリングを持ってきて」と、すごく簡単な英語でいってるのに、ウェイターは「ヌードルはウェイトレスが持って回っている」と、どうも「麺」を「やきそば」と勘違いしたようす。毎日、客が同じようなオーダーをしてるだろうに、なぜわかんないだか。 「炒麺(ちゃうみん)じゃなくて、生麺(さんみん)。それと蝦雲呑(はーわんとん)だよ」。広東語でいったら即効で注文が通る。「この店、英語がなかなか通じないのよねぇ」。Oちゃんは深いため息をつく。 すぐに「選ばれた鮑」がやってきた。ビニール袋に入った鮑を2個、黒服がテーブルへうやうやしく差し出す。 で、でかすぎる。それに「2個」も、食べきれないよねえ。聞くとこれは「小さい鮑だから2個にした」らしい。これで小さいというのか。ゆうに15cmはありそうな鮑。なんとなく不満気な我々の顔色を察知し、黒服は一端厨房へ戻り、新たな鮑を選んできた。 殻の最長径が20cmほどもありそうな大鮑が1個。ビニールのなかで、うにうにと動いている。我々は圧倒され、何もいえない。これがA$95だという。A$1を80円として、約7600円か。「ほ、好呀(ほぅあ=いいです)」というと、黒服は満足気に下がっていった。 シャブシャブの準備を待つ間に、点心をつまむ。試したのは、 「蝦餃」(はーがお=蝦餃子) 「韮菜餃」(がうちょいがう=ニラ餃子) 「潮州蒸粉果」(ちうちゃうちぇんふぁんぐぉ=潮州風の餃子) 「蘿蔔糕」(ろうばっこう=大根餅) 「煎腸粉」(ちんちょんふぁん=お米のクレープを油で揚げ焼きしたもの) の、粉ものばかり5品。どれもサイズは香港よりだいぶ大きく、味つけは意外にしっかりしてうまい。というより、素材がいいのだ。比べる店によっては、「本場よりよっぽどうまい」もあながち嘘じゃないかもと納得する。蝦餃子の蝦など、固いくらいにぷりぷりしている。なんだか久しぶりに食べる香港の味だ。 細かくいうと煎腸粉の焼き加減は焦げ目が固くて気に食わなかったが、これはシドニーだからでなく、焼くおねえさん個人の技術差と私の好みによるものだから致し方ない。驚いたのは、煎腸粉の上に甘味噌とゴマペーストをかけ、白ゴマを振ってくれること。これは香港そのまま。しかも「味噌とペースト、好きだからいっぱいかけて」といったら、別の小皿に山盛りにしてくれたのもベタな香港風。なんとうれしい。 やがて、直径15cmもありそうな、大鮑スライスがやってくる。期待にわくわく。 黒服は大鮑スライスを、スプーン2本とレードルを器用に使い、煮えくりかえったスープへ入れて、しゃぶしゃぶしゃぶとゆがく。そして取り皿ならぬ、醤油だれの入った取り碗に、2枚3枚と積み重ねた。できたてアツアツを食べようと、皆、あわてて口に運ぶ。 あちち。しかし、な、なんとやわらかいのだ、この鮑。 醤油はきちんと中国醤油。スパイスにと、ネギ&チリも入って、まんま香港で食べるたれの味だ。大鮑は見た目よりもずっと繊細な味で、やわらかく、くだんの演出効果もあって心から大満足。黒服は手を休めることなく「しゃぶしゃぶしゃぶ」を繰り返し、最後に鮑の下のレタスもしゃぶしゃぶして、全員の碗へすっかり取り分けてしまう。 さて、じつはここからが本番だ。 雲呑を残りのスープへ泳がせ、間髪入れずに生麺を入れる。待つこと約5分。すぐに雲呑麺が出来上がる。ぷりぷりの蝦雲呑、こりこり固めのあくまで香港風生麺、そして大鮑の出汁がこっくり効いたスープ。んもう、どれもこれも、うまいのなんの。 素材に恵まれたシドニーだからこそ実現した「香港の味」。あなどれないその味に「絶対また鮑しゃぶ後の雲呑麺を食べにくるぞ」と再来を誓い、Oちゃんに感謝。 夕方、私は初めての船旅(注:「船酔いの旅」の略)へと出発したのだった。
![]() ![]() 左は、奥が大鮑のスライス、手前が生麺と蝦雲呑 右は、食べる直前、たれにつけた瞬間
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