| 「亜細亜くいだおれ」 April 13,1999 | |||
| 豪華客船の総料理長、7変化 | |||
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1月8日にマイアミを出港。5月までの約4カ月をかけ、世界一周クルーズを続けている豪華客船ロイヤル・バイキング・サンが、先週半ばに日本へやってきた。鹿児島、神戸を回って4月9日に横浜へ入港。160年の伝統を誇る、イギリスの名門キュナード社が所有するバハマ船籍の客船で、総トン数は3万7845トン。中型船(4万トン以下をこう呼ぶそうだ)では「世界一ね」(注:後に説明)との呼び声も高い、クルーズマニアには特に評判の高い船だ。 翌10日には横浜港を出港するという。 たまたまテレビでその予定を知った私は、わざわざ船をお見送りするために、東京から横浜の大桟橋まで赴いた。近くで見るとその船はしごく重厚な趣きがあり、その雄姿に結構感動してしまった。上階のキャビン(客室)にはプライベートベランダがつき、やけに豪華な様相を見せる。 ![]() 午後3時。ロイヤル・バイキング・サンは大きな汽笛とともに横浜港を出港した。環境問題を考えてか、期待していた紙テープの洗礼はなく、船は静かに岸壁を離れる。次の寄港地は、ホノルルだという。 話は2カ月ほど前に溯る。 取材のため、シドニー港から、ぱしふぃっく・びいなす(2万6518トン・日本船籍)に乗ったのは、直前に食べた大鮑しゃぶの感激が冷めやらぬ2月のとある土曜日のことだった。停泊中の船は微動だにせず、乗り物に滅法弱い私もほっと一息。とはいうものの、じつは部屋に入ってすぐ船内見取り図で診療室の場所を確認した、それは相当に心細いクルーズの初日であった。 この船の全行程は、東京→パラオ→シドニー→ダニーデン→オークランド→ヌーメア→グアム→東京を33日間かけて回るというもの。取材に1カ月のスケジュールを組めない我々は、シドニーからオークランドまで9日間のオセアニアショートクルーズを体験することになっていた。 初日の夕食は、デッキ(甲板)でのBBQディナー。楽しいショーもある。オーストラリア産のロブスター、ローストビーフに舌つづみを打ち、楽しいディナーはあっという間に終了した。 夕食後、早速船内を探検する。旅に必要なほとんどすべての設備が整い、「へえ」「ほお」と、なんだか感心の連続。要するに客船とは動くリゾートホテルなのだなと、結局は当たり前の感想に終始した。 プロムナード(通路を船ではこう呼ぶ)の壁に、今回のクルーズのイベントをスナップした、楽しい写真が貼られていた。私たちにもこういう日々が待っているのね、とささやかながら期待をもって堪能する。そこにはショータイムがあり、カジノの夜があり、浴衣パーティにフォーマルディナーと船旅の楽しさが克明に記録されていた。なるほど、これは飛行機の旅にはないお楽しみだ。 その写真の中に、とても気になる人物がいた。もともとの舞台が浴衣パーティなのかマスカレード(仮装パーティ)かはわからないが、彼は白塗りの派手な化粧をし、なんとサムライの格好をしていた。目立ったのは小山のような巨体のせいもあるが、さらに彼は豪快な笑顔で木刀らしきものを振り回していた。こんな乗客もいるのかあ。船旅って、ホントに奥が深い。 朝から晩まで、さまざまなイベントが目白押し。やることが多すぎて、あっという間に数日が過ぎる。とはいえ、こうして客船に乗っているときも、結局私の興味は「食」につきた。なにしろ船旅の楽しみは食事の比重が非常に大きい。それこそが船旅最大の特徴ともいえるほど。「食」に関するイベントも毎日のように開催されている。 その日は普段空いているレセプションルームを「茶店」に見立て、そこで和菓子とお抹茶をふるまうと連絡を受けた。早速行ってみると、部屋の入口に「甘味処」ののぼりを立て、担当のクルーが数人、ハッピ姿で呼び込みをしている。もちろん私も取材のためと称し、実際は和菓子につられて自ら呼び込まれた。 6種類の和菓子から好みのものを選び、注文する。部屋は、そのまま和菓子屋の店内の様相。ちゃんと「和菓子職人」もいて、ハッピ姿のクルーにてきぱきと指示を出している。ん、あの職人さん、どこかでお会いしたことがある・・・。 うわ、サムライだ。 気のいい和菓子屋の職人さんに扮する巨体の持ち主は、例のその、白塗りのサムライだった。そして後日インタビューでお会いすることになる、飯田総料理長その人なのであった。「船ではクルーがひとり何役もこなさなければならないんです」と事前にインタビューしたクルーが話してはいたが、総料理長がサムライや和菓子屋の職人に扮する楽しい職場であるなど、誰が想像できよう。 「楽しくなければ料理じゃない」が、乗船歴12年を誇る飯田総料理長のモットー。重複するが、限られた空間で過ごす船旅のお楽しみは、なんといっても「食」につきる。毎日のディナーはメーンイベントで、そのためほぼ正統派の料理になるが、代わりにランチは遊びを多く取り入れる。ひとりずつ専用鍋で楽しむ「チーズフォンデュ」や、蒸篭で振る舞う「飲茶」がその例だ。 個性的なメニューが苦手な人には、ライトミールと称しうどんや丼ものを用意。それはもういたれりつくせりの毎日。乗客の運動量がどうしても少なくなる船内では、摂取カロリーをなるべく低く設定するため相当に緻密な計算をするそうだ。 そのサムライ、飯田総料理長に正式にお会いしたのは、ニュージーランドのミルフォードサウンドを航海しているときのことだった。船で調理する楽しさと苦労話に始まり、厨房・冷蔵庫・冷凍室など、船内の施設をひととおり案内していただく。船内放送が流れたのは、話が一段落してちょうどひと息ついたころだった。「右舷にすれ違う客船があります」。他の乗客につられ、総料理長とともに私もすぐ窓際へ移動する。 ミルフォードサウンドは、ニュージーランド南島南西部に位置する美しい入り江だ。霧にむせぶ峡谷をバックにすれ違った客船、それがロイヤル・バイキング・サンだった。 「懐かしいわあ」 すぐ近くに座っていた、クルーズマニアの乗客がいった。「それは素晴らしい船だったのよ」。彼女は続ける。「私は北欧クルーズへ行ったの。サービスがそれは素晴らしくて。クルーも本当に洗練されてるのよ。やっぱりあれこそが世界一の船ね」 なんだか、映画「タイタニック」の世界。相当にゴージャスなんだろうなあと、うっとり想像する。そんな彼女が、なぜ今では洗練を極めた外国船でなく日本船に乗っているかというと、やはり「食事問題」が大きいのだという。「一定の年齢を越えると、どうしても和食がよくなるのよねえ」とつぶやく彼女の言葉に、横にたたずむ飯田総料理長が満足げにうなずく様子はとても印象的だった。 つまり、そんな経緯からの冒頭のお見送りだった。 遠目にすれ違ったロイヤル・バイキング・サン、今回初クルーズを堪能したぱしふぃっく・びいなす、じつはこの2隻の客船は私が想像していた豪華客船よりもかなり小さい印象を受けた。私もうっかり者だわね、とすこし反省してみる。しかしこの原稿を書くにあたり客船についてのデータを調べていくうち、それは「うっかり者だわね」でなかった理由が判明する。 10年前、私が生まれて初めて内部に足を踏み入れた豪華客船は、イギリス生まれのクイーン・メリー号だった。当時すでにこの船は展示館&ホテルとして第二の人生を踏み出しているが、そのときの印象が鮮烈で、私の頭のなかには「この船こそ豪華客船」とインプットされたらしい。 クイーン・メリー号は総トン数8万1237トン。しかも全長300m以上。総トン数だけを見ても今回体験&お見送りした船の2倍以上なのだ。そりゃー、大きさも違うはずだわね。
![]() ![]() 飯田”サムライ”総料理長が和菓子職人に扮し、 振る舞ってくれた和菓子&お抹茶(左)。 この葉は日本から積み込んで2週間経っているが 、この通りツヤツヤ。冷蔵庫は食材別に分け、 湿度と温度を徹底的に管理することで、 このツヤツヤマジックを成功させているのだ。 ひとりひと鍋で食べるチーズフォンデュ(右)は、 今回私が特に気に入ったランチのひとつ。 いろんな素材を少しずつ、というこの遊び感覚が楽しくて◎。 スイスの正統派フォンデュで楽しみたい人には 「具はパンとポテトだけ」も可能でした。 日程の関係で、残念ながら飲茶ランチは体験できず。
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