| 「亜細亜くいだおれ」 May 11,1999 | |||
| ハワイ島の楽園にて | |||
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レストランの名前は「パフイイア」。ハワイ語で「水族館」を意味する言葉だ。 名前の通り、入口には天井まで届く水槽があり、近海の色鮮やかな熱帯魚が泳ぐ。なかでもひと際目立つ魚がイエロータン。大きさは10cm強と標準サイズだが、全身は鮮やかなレモンイエローで、さらにどの魚とも違う特徴がある。ひょっとこのように、つんと尖った口だ。 遥か昔、イエロータンはハワイ島カイルアコナの象徴だった。海はこの魚の群れであふれ、遠くから見ると海のその部分だけが金色に輝いて見えたという。その美しい海を見て、地元の人々はカイルアコナを「ゴールドコースト」と呼んだ。 真っ白な砂浜が続く珊瑚礁の海ならそれも容易に想像できるが、ハワイ島は黒い黒い溶岩に囲まれた島。火山の神ペレが支配すると信じられるこの土地では、イエロータンの群れで金色に輝く海の話は相当に迫力がある。 ホテルのスタッフによると、施設内の水槽やラグーンに必ずイエロータンがいるのはこの逸話のせい。なんとなくロマンチックな言い伝えのようだが、実際に海の中で黄色いひょっとこの大群にとり囲まれる様子を想像したら、私はダイビングも熱帯魚も大好きだが、さすがにちょと気持ちがわるくなった。 「パフイイア」は、フォーシーズンズ・フアラライのメインダイニング。美しい海辺に建つ、木造一軒家のロマンチックなレストランだ。1階の半数の席がオープンエアで、テーブルでは常に波の音が間近に聞こえ、潮風を肌に直接感じることができる。晴れた日には、目の前に沈む雄大なサンセットのおまけまで付いて、とにかくもうゴージャスの一言につきる。 ハワイ島の広い牧場でのどかに育ったWa−gyu(注:和牛のこと)、近海で獲れる新鮮な魚たち、そして契約農家から毎朝届く有機野菜とハーブをふんだんに使ったヘルシーな料理が評判。スーシェフのアクンナさんによると、特にジャンルは意識せず、「ハワイならではの食材と自分の経験とをミックスさせたもの」がこの店の料理だそうだ。 アクンナさんは、南アフリカに生まれヨーロッパで育ち、その後はテキサスのヒューストン大学で経済を勉強したグローバルな黒人シェフ(しかもすごいハンサム! これ、セクハラだったらごめんなさい)。 テキサスでの生活が長かったこともあって、最も得意とするのはケイジャン&メキシカンスパイスを多用した料理。ある意味調理方法に際立った特徴がないハワイでは、彼の料理の強い個性が、このレストランの大きな戦力になっているようだ。アクンナさんが特に好んで使う食材はオナガとオパカパカ(いずれも鯛の一種)、そしてチラントロ(コリアンダー)。2種類の白身魚は火を入れたときのキュッとした独特な歯ごたえが特に好まれ、味に癖がないためソースでアレンジしやすく、さらに料理人にとっての一番の魅力は「煮くずれしないこと」とのこと。 太陽が沈み周囲が暗くなると、テーブルの周囲にたいまつの火が灯される。波の音に混じり、ギタリストが奏でるアコースティックなハワイアンの調べがまた心地よい。 じつは今から17年前、私が生まれて初めてひとり旅をしたのがハワイ島だった。当初はホノルルの知人宅にホームステイして脳天気に遊ぶはずだったが、さまざまな事情が重なり、突然コナ空港へ降り立つ羽目になった。83年にキラウエアが大噴火を始める直前のことで、当時カラパナにはまだ美しい黒砂海岸も存在していた(その後90年に溶岩流によって全滅)。 地元に詳しい日系3世の知人の案内で、コナ南部の小さなマナゴホテルを訪れ、テレビのない部屋に泊まり、山中のマカデミアナッツ農家で数日間世話になった。マカデミアナッツが生で食べても美味と初めて知ったのもこのとき。毎朝大量のナッツを拾っては石と金づちで殻を割り、欲求のおもむくままむさぼるように食べた。家の周囲には野生のコーヒーの木が生え、パッションフルーツ、グアバ、スターフルーツが実り、その根元には真っ赤なアンスリウムの群落。当時私の想像した「南の島の楽園」がそこにあった。 世話になったそのマカナッツ農家をもう一度訪ねたいと、あれからハワイを訪れるたびに思ってきたが、たぶんまだきっと舗装された道などなく四駆でしか辿りつけない不便な山中のあの場所を、今も同じように「楽園」と感じられるかどうかに自信はなく、「きっと思い出に止めておいたほうがいいにきまってる」と負け惜しみの日々を過ごしていた。 そして先月訪れたハワイ島のこのホテルには、私が知るものとはまったく違う意味での「楽園」があった。 木漏れ日の光と風の音が気持ちいいハワイ風のエステ、黄色いひょっとこがたくさんいる水槽とラグーン(ラグーンはプールになっていて、なんと熱帯魚と一緒に泳げる!)、計算されつくした「人工の美しい自然」に囲まれたその空間は、究極のリゾートと呼ぶにふさわしい贅沢な「楽園」なのだ。 ここでは生のマカデミアナッツは決して食べられないけれど、音・光・香りなど五感を震わす最高の雰囲気のなかで、外側カリッ中身ふんわりとうまい具合に火の通ったオパカパカのグリルが堪能でき、キリリと冷えたカリフォルニアの白ワインが飲め、それはもう得もいわれぬ至福の時間を過ごすことができる。 新たにそれを思い出しながら、これが大人になるということなのだなあ、でもやっぱり生のマカデミアナッツのほうが贅沢かなあと、しつこく物思いにふける日々を送り、ホテルの料金表を見ながらため息をつく、やっぱり小市民な私なのである。 ![]() ![]() ブラッディマリー風味のガスパチョを味わいつつ、 太平洋に落ちる夕日を眺める
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