| 「亜細亜くいだおれ」 June 8,1999 | |||
| 台中・漢口路のひとり鍋 | |||
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初めて訪れた台中の第一夜。右も左もわからないが、とりあえず夕食をとるために夜の街へ。 仕事を終えたのは9時半すぎ。荷物を置き出かける準備をしたら、軽く10時を過ぎてしまった。腹ぺこもいいとこだ。日々の食事は私にとって最重要課題。殊に知らない土地では「珍しいものが食べたい」欲求が高まるため、その重要性はぐーんと増す。「ちゃんと食事、できるかな」。近くに夜市はなさそうだし、ほんのすこし不安がよぎる。 念のため、ホテルの従業員に「おいしい台湾ごはんが食べられる、遅くまでやってるお店を教えて」と聞いたら、「漢口路へ」と指南された。とりあえず時間を心配しなくてもよいと知り、ホッとひと息。食べられない「大惨事」だけは避けられそう。 さて、夜の漢口路。 あるある。食べ物の名前が書かれた看板がいくつも出ている。台湾風喫茶店、水餃子、お粥に牛肉麺。地味ながら、歩道にテーブルも出ている。どこもレストランというより、オープンエア(というより屋台風か?)の小さな店ばかり。私の期待はますます高まるのだった。 そんな中、やたら気になる看板があった。「迷你火鍋」(ミニ火鍋)、いわゆる「ひとり火鍋」である。 とりあえず、水餃子と鍋貼(焼き餃子)で軽く腹ごしらえをし、その気になる看板の店へ向かうことにした。 夜遅いせいか、ほとんどの店は人影まばらだが、一軒だけやたら混んでいる店があったので、そこへ入る。 自慢するが、私の唯一知る台湾語は、「ばぁつぁん」(肉粽=チマキのこと)だけである。しかし、台湾の文語は香港の廣東語と同じ繁体字を使うので(細かくいえば単語はやや違うけれど)、メニューの解読くらいは問題ない。迷わず筆談する。私は看板の「ミニ火鍋」を注文。肉は牛・豚・羊の3種から、羊肉を選ぶ。 「ミニ火鍋」の具は、青菜、シイタケ、トマト、トウモロコシ、タロイモ、豆腐、アサリ、塩圓(豚ひき肉が入った白玉団子)、練り物がそれぞれ1個ずつ。それに揚げ湯葉と、お米で作ったきしめん状の麺がつく。直径15cmほどの小さな鍋が目の前で火にかけられ、サービスのキャベツが山盛りにされた。やたらヘルシーで、うれしくなる。 この日人気が高かったのは私も注文した「ミニ火鍋」と「素食火鍋」(ベジタリアン火鍋)のふたつ。いずれもセットでNT$150(約600円)と、なかなかリーズナブル。オプションの具では「あさり」と「揚げ湯葉」を、半数の客が注文していた。餃子をひと皿少なくすれば、私も「揚げ湯葉」をオプションで食べられたのに、とすこし後悔する。 ふと視線を感じて周囲を見まわすと、満席のカウンターから外国人に向け、好奇の目が集まっていた。困った。決していやな視線ではないが、間違ったことをして笑われるのも癪にさわる。仕方なくマイ鍋が沸騰するまでの間、さり気なく台湾人客の食べ方を観察することにした。 香港で食べる火鍋とは、やや手順が違うようだ。 まず、鉄鍋で羊肉とタマネギを生焼きにし、皿に盛ってくれる。キャベツが鍋に盛られるのはその後だ。羊肉から出るうまみを、スープの出汁にするらしい。それはたいへんいい考えなのだが、早速ここで困ってしまった。 この生焼け羊肉をそのまま食べるべきか、それとも鍋に入れるべきなのか。 考えたが皆目見当がつかない。でも、わからないときは、とりあえずそのまま食べてみるに限る。レアの羊肉、イケるもんね。 羊肉を口に運ぶと、右奥の人が「あ!」と、微妙な表情を浮かべた。どうも違うようだ。きっと鍋に入れるのだな。でも、あまり気にしない。結構うまいしね。 どの火鍋にももれなくついてくる卵はお碗に入れて溶き、「すき焼き」のように、しゃぶしゃぶした具をつけて食べる。香港の温(わん)家での習慣をそのまま実践だ。 左どなりの人が「ひゃ〜」という表情。ああ、これも違うのか。でも、おいしいし、そんな小さなことでは動じないぞ。 (※ちなみに、卵は黄身だけをお碗に入れ、しゃぶしゃぶした具をつけて食べ、白身は具をくぐらせて鍋に入れる、というのが正統派台湾風食べ方でした)。 多少の違いはあれど、緊張するほどに変わったお作法はなく、要は好きな具を鍋のスープでしゃぶしゃぶし、頃合いを見計らって口に運ぶだけの単純な火鍋だった。夢中で食べるにつれ、客衆の好奇の目も薄らいでくる。ちっ。嬉しい反面、なぜかちょと残念な気がするまことに不思議な感覚。 大きな声を出したりこそしないが、言葉がわからない外国人に、客は誰もが驚くほど親切だった。私の鍋にスープが少なくなると、すかさず隣の客が「スープが少なくなった」と従業員を呼び、従業員が入れ忘れた調味料は「入れてあげて」とさりげなく指摘する。私としては、そんな小さな親切がとても嬉しかったので満面笑顔で「謝謝」と応えるが、シャイな客が多いせいか、結局笑顔はすべて空振りに終わる。 ミニ火鍋屋は、やたら居心地のいい夜食どころだった。少しくらい間違った食べ方をしたところで、笑う客はひとりもいない。人として当たり前のエチケットに、ちょと敏感に感激してしまう単純な私。1カ月くらいだったら台湾語の挨拶と家庭料理がいくつか覚えられるかなと、「住みたがり」の虫がわきわき。頭のなかは思い込みの皮算用でぐるぐるとうずまくのだった。 翌日、仕事で世話になった台中出身の運転手に「ミニ火鍋屋がはやってるんだね」といったら、「流行というより、もうあたり前って感じかな」といわれた。彼も月に数回は家族とミニ火鍋を食べに行くそうだ。ちなみに彼がすきな具は、例の揚げ湯葉。 ホテルまでの帰り道、数えてみたら、この通りだけで似たような火鍋屋が9軒あった。どこも深夜3時から5時までの営業で、メニューはほとんど同じ内容。 決して「美観」といえる町並みではないし、ほこりっぽいし、高さの違う歩道(私道?)はなんだか歩きにくい。スクーターがびゅんびゅんと歩行者めがけて突っ込んでくる道路は、慣れない外国人観光客には随分と注意が必要だ。でも、夜中にこうしてふらりと「ひとり火鍋」ができる、のどかで人情溢れる台中、来年はマジにすこし長く行くかなと考える今日この頃である。 ![]() ![]() 1人前(左)と店内
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