「亜細亜くいだおれ」 June 22,1999
旅ゆけば香港に茶の香り

牛嶋さんのイラスト 牛嶋 直美
ウシジマ・ナオミ

からだの組成の87%がチューカでできているちゅーか。残りの13%はタイ、ベトナム、インド料理でできてるちゅーか。
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日本茶の新茶同様、中国茶も今や春茶が花盛り。

そんな季節に香港や台湾(この話は次回)へ行ってしまったもんだから、もうすっかり大散財の巻きなのである。

何しろ欲しかったお茶は、香港で100g6000円以上もした。今、日本円に計算し直して自分でもびっくりしたが、その他に購入したお茶もすべて100g3000円をゆうに超える。お金さえ出せばそれなりのお茶が手に入る香港は、お茶ずきにとってはまさに禁断の花園。そんなわけで懐はすっかり寂しくなったが、気持ちはとてもほくほくだ。ふふん。負け惜しみじゃないぞぉ。

さて、5月の香港。

お茶屋さんの店頭には、「新茶」や「春茶」の張り紙をいたるところで見かけた。たまたまのぞいたその店でも、チャイナドレスのおねえさんが試飲のプレゼンテーションをする机の前面に、「杭州・明前獅峰龍井(みんちんしーふぉんろんじん=旧暦の清明節から穀雨ごろに摘んだ獅峰産の龍井茶)、江蘇・碧螺春(ぴーろぅちょん)」と、その地名や名前を知らなければまず読めないような達筆の文字が踊っていた。

張り紙を見た途端、心臓が高鳴ってしまった。悪い癖と思うが止められない。仕事中だったけれど、頭で考える前に香港人店員のおねえさんに声をかけていた。「コレとコレとコレ、試飲させて」。

中国茶のなかでも、私はとても緑茶に惹かれる。特に「龍井」(ろんじん)という、茶葉がぺったんこの不格好なお茶がすきだ。まずはその香り。茶葉の若草色も綺麗。もちろんお茶の味はいうまでもなく、さらには茶葉そのものも美味(料理にも使われるが、ときにはそのままぱくぱく食べてしまうことも・・・)なのだ。

ひとめ惚れしたのは上海だった。

個人旅行がまだ面倒くさかった80年代、旅行社に勤める友人がどうやってくれたのかわからないが、とにかく「団体として」観光旅行へ行った。ただひたすら中国料理を食べるために組んだ、女性ばかり10人ほどのツアーだった。

自由時間(いわば全部がそうなのだが)に、有志を募って中国4大庭園のひとつ、豫園へ行くことになっていた。目的は庭園ではなく、大きな鯉が泳ぐ池に建つ茶楼。お茶を飲むのが目的だ。店内には、外からのやわらかな光が差し込み、趣味人たちのお茶に親しむ姿が見られる。今思い出しても、非常に風情がある光景だ。

テーブルの上で、そのお茶は日差しを浴びてきらきらと光っていた。

烏龍茶や鐵觀音、普洱(ぽーれい)など、他のお茶が柴砂茶壷(じーさーちゃうー)と呼ばれる手乗り急須(小ぶりの急須を私が勝手に命名)でふるまわれるのに対し、龍井など上海近郊でとれる緑茶だけは、なぜかガラスのコップに入っていた。

コップを真横から見ると、茶葉は上へ浮き下へと沈み、薄い山吹色の液体の中で静かに舞った。鼻を近づけると、心臓がばくばくした。なんて清冽な香りだろう。

茶楼を出て、さらに名物の小籠包と白玉団子を食べた後、やっぱり庭園見学はパスして(つまり豫園へ行ったのに、豫園を見ないで帰ってしまった)、ガイドブックで見つけたお茶屋へ直行し、そのお茶を購入した。

それまでに、香港で何度も飲んだことがあった。だけど飲み方はまったく違っていたし、私が出会ったお茶とはまったく別もののような気がしたのだ。

店には、同じ「龍井」でも、産地や摘み取りの時期、さらにはジャスミンの香りをつけたものなどたくさんの種類があった。当時の私にその違いはまったくわからなかったが、こういうとき、とにかく「一番高いのを買う」のが私のやり方。私論だが、よいお茶の味を知らなければ、悪いお茶の味もわからないはずだ。

ほんの1両(中国では50g、香港では37.5g)だか2両だけ、そのお茶を買った。店員は無造作に、茶色いパラフィン紙でできた小さな袋に入れてくれた。今思えば、お茶を買うにはあまりよい季節とはいえない(新茶を飲める季節ではない)、それは厳しい冬の出来事だったが、それでもその出会いにはとても鮮烈なときめきを感じた。

その後、台湾を訪ねた機会に「凍頂烏龍茶」「文山包種茶」「阿里山茶」「梨山茶」など、また違った芳香に出会い、私はますますお茶にはまった(台湾のお茶話は次号します。しつこいけど)。ただし、芸術としての「茶藝」や「茶の心」はあまり理解していないようで、「茶経」などは何度見ても(読むのかな?)さっぱり理解できない。勉強をおろそかにするものの逃げ口上で恥ずかしいが、ただ単純に「好きなお茶を飲む」ことが、私の無粋な楽しみ方だ。

ちなみに「お茶の本場」と勘違いされやすい香港だが、実はまったくといっていいほどそれは誤解。もちろん中国茶が身近なことに変わりはないし、茶葉を買うには日本よりずっと適しているのも事実。ただし、飲茶(やむちゃ)以外でお茶を楽しんだり趣味でお茶を楽しむ人はほんの一握り(もちろんすっごいマニアはいます)にすぎない。通常は、家であまりお茶を飲んだりしないもの。まったくの私見だが、茶葉の種類は違えど、日本人のほうが香港人よりもよっぽど家でお茶を飲んでる気がする。

私は香港滞在中、居候先ではあまりお茶を飲まず、だいたいは毎週お気に入りのお茶屋さん(茶葉を売る店。なかには喫茶店のように店内でお茶が飲める店もある)に通って、そこでひとりゆっくりとお茶を楽しんだ。

そのとき一緒にお茶を飲みに行くのは、決まって日本から旅行で来た友人達。そういえば、香港人の友達とは一度も行ったことがない。さらに店で知り合うのも、日本やヨーロッパ、アメリカなどから来た「お茶ずきの」外国人観光客がほとんどだった。でも、「香港=お茶を楽しむところ」という偶像は、ちょと矛盾してるようだが、実は香港人の中にもあるのかもしれない。

友人とお茶屋さんでお手前を楽しんでいるとき、香港の某新聞社の人から写真を撮られたことがあった。カメラマンからの注文は「茶楼(茶藝館?)でおともだちとお手前を楽しむ客の図」で、その目的はなんとお茶の本場台湾へ向けた「楽しい香港の観光スポットを紹介するための観光案内」。

あの写真が台湾のどこかの街で「お茶を楽しむ香港人の図」として紹介され、それを見て香港へ旅行をする台湾人観光客がいるかと思うと、すこしばかり複雑な心境である

。 ※単語のふりがなは、すべて広東語をひらがなで表現したものです。中国語(北京語)の発音とは随分と違う部分があると思いますが、どぞご了承くださいまし。

chacha
「樂茶軒」で飲んだ「台湾鮮凍烏龍」というお茶。
茶葉が凍った状態ででてきます。
量もあふれんばかりの太っ腹!(左)

これが「龍井」の茶葉。
炒る際に、熱した釜に押し付けるので、
茶葉がこのように偏平の独特なカタチになるそうです。
一度すきになると、
そのぺったんこな姿までいとおしくなるから不思議です。はい。(右)


香港で毎週通ってたお茶屋さん

樂茶軒(ろっちゃーひん)
上環皇后大通中290A樓梯街高層地下
電話:2805−1360
営業時間:11:00〜19:00

上環(しょんわん)のキャットストリートそばにあるお茶専門店。店の奥が喫茶店のようになっていて、お手前が楽しめる(やり方がわからなければ教えてくれる)。他に何軒も通うお茶屋さんはあったけど(どの店でも無料で試飲はできる)、喫茶店のように座って長居ができて、清潔なトイレが店内にあるお店は意外に少なかったので、結局ここにばかり入り浸ることに。

店主の葉(いっぷ)さんによる達筆(こちらは本当にきれいな字です)のお茶メニューがふるっていて、お茶を飲みながらコレを眺めるのがすきだった。


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