「亜細亜くいだおれ」 July 13,1999
台湾山中の茶畑をゆく

牛嶋さんのイラスト 牛嶋 直美
ウシジマ・ナオミ

からだの組成の87%がチューカでできているちゅーか。残りの13%はタイ、ベトナム、インド料理でできてるちゅーか。
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凍頂烏龍茶は、台湾南投県鹿谷地区凍頂山山頂でとれるお茶のこと。茶葉はころころと丸まった独特の形状で、明るい深緑色をしている。烏龍茶という名ではあるが、日本でおなじみの中国産ウーロン茶とは、色・香り・味ともにだいぶ違う印象がある。

ひとことでいうとすごく「青い」のだ。

お茶の色もこはくというより、薄い黄金色。最初は不思議でたまらなかったが、理由を聞いて納得した。このふたつの烏龍茶は、発酵の度合いなど根本的な製法がまったく違うのだ。名は同じでも、違う種類のお茶といっても過言じゃないらしい。

その凍頂烏龍茶の産地を、一度訪ねてみたいと思っていた。

だから気軽に「行く」と決めてしまったが、実行してすぐに後悔した。台中市内から車で約2時間半。詳細地図もなく、さんざん道に迷いながらの悲惨な旅だった。途中から大雨にたたられ、霧も深くなるばかり。山を登っても登っても「ここじゃないよ」といわれ続け、ドライバーの疲労も極限に。「もう無理するのやめましょうか」と半ばあきらめかけた頃、突然、目的の看板が目の前に現れた。

茶畑は、本当に凍頂山の山頂にあった。

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温暖な気候ゆえ、周囲にはヤシの木がおい茂る。雨あがりの茶畑は夕日に染まり、時間がたつにつれ、緑色の群落は赤っぽい茶色に変化していく。感動的なほど不思議な風景ではあった。だけどそこは「凍頂烏龍茶」というブランドネームから想像するには、ひどく地味な場所だった。

この畑を守る5代目主人の林為仁さんから、凍頂烏龍茶について説明をうかがう。

畑の場所は標高800m。茶樹の品種は青芯烏龍。先代から受けつがれた話によると、最初の苗木は清の時代に、ひとりの軍人が中国の福建省からこの土地へもって帰ってきたそうだ。苗木は、原産地の気候によく似た温暖で湿気が高いこの凍頂山にうまく根づき、今日までずっと自然の恵みを与え続けることになった。何本かの茶樹は、それから100年以上経つ今もなお、毎年新芽を出し続けているという。

林さんは、お茶を作って60年の大ベテラン。幼少の頃からずっと茶葉に親しんできた。今も毎日朝から晩まで、文字通り凍頂烏龍茶に囲まれての生活を送る。強い日差しによって赤銅色に焼けた肌と、額に刻まれた深いしわが、高山での作業の大変さを物語る。

温暖な凍頂山では、一年を通して茶摘みを行なう。茶葉は、春茶や夏茶など、摘んだ季節の名をつけ出荷される。人気が高いのは春茶と冬茶で、中でも特に春茶を珍重する傾向がある。私がそんな生意気を口にすると、林さんは「夏茶には夏茶の、秋茶には秋茶の味わいがあるんだけどね」とひとりごちた。

書籍や人の話から「春茶がいい」と思い続けてきた私の耳に、作り手からの言葉はほんの少し重く響いた。だけど、外国人の私が毎年四季のお茶全部を味わうのは至難の技だし、やっぱり来年もきっと「春茶を買いに走ってしまうんだろうなあ」と、ぼんやり考える。

林さんが、自家製のお茶を入れてくれた。

できたばかりの今年の夏茶という。大ぶりの茶壷に茶葉をたっぷり入れ、慣れた手つきで湯を注ぐ。その茶葉の量は私が通常日本で入れる数倍はありそう。さすがお茶の本場だ。

その、太っ腹なほど濃ゆい夏茶を飲んで「ちょと苦みがありますね」と感じたまま素直にいったら、「これは苦くないです」と憮然とされてしまった。そして「日本人はもっと薄く入れたほうがいいかな」とぽつり。私ったらさっきから余計なことばっかり。しゅん。

一家が毎日飲むお茶は、常にこの濃さなのだそうだ。5歳と7歳の孫たちも、普段から同じものを飲んでいるという。なんて大人の味覚なのだろう。私も舌を鍛えなくっちゃかねえ、と思ってたが、その後訪ねた茶藝館ではそこまで濃く入れる人がいなかったので、すこしだけホッとする。

それでもぐびぐびと小さなお茶の杯を重ねる私を見て、林さんは笑いながら「特別なお茶を入れましょう」と、棚から古ぼけた紙箱を出してきた。20年前の凍頂烏龍茶だという。茶葉をみせてもらうと、やはりころころと丸い。20年経った今も、独特の形状が残ったままなのだ。しかし色は深い緑ではなく、黒に近い茶色だった。

お茶は濃いこはく色をしていた。味はとてもまろやか。なんだかヴィンテージワインのようだ。強くとがった風味を想像していたので、ちょと意外だった。この年は非常にお茶の出来がよく、1箱だけとっておいたのだそうだ。とても貴重で口福なる体験に感謝。

凍頂山遠征の翌日、台中市内にある2軒の茶藝館を訪ねた。

いずれも、広い庭をもつ一軒家の茶藝館。凍頂烏龍茶や阿里山茶、盧山茶など、台湾中部産のお茶を中心に自慢のラインナップ。特にこだわっているのは、やはりそれぞれの春茶と冬茶であること。2軒とも「それ以外は扱わない」と言い切る。

茶葉は各店の自家焙煎によるオリジナルだ。畑を指定し、半製品の状態で仕入れ、仕上げの焙煎だけは自家工場で行なっている。産地も大切だが、最後の仕上げはもっと重要。焙煎の善し悪しでお茶のランクはすっかり変わってしまうからだ。

日本にも、きれいなお庭を見ながら一日中お茶を飲んでいられ(さらに放っておいてくれる)茶藝館があればいいのに、と最近強く思う。そしたら好きなお茶を缶で買って店にキープ(※ボトルキープのようなもの)し、毎週のように通うのになあ。茶葉や水の持ち込みも出来たら尚よしだが、こりゃーちょと贅沢ですかね。

さて、今回の台湾出張でも、私は香港に引き続き元気に散財した。日本円で概算すると、お茶だけでよんまんえん。ひー。やっちまった。

どうしても味を試したくて、気に入った茶藝館のお茶をひと通り買ってしまったのが元凶。でも使った金額以上に学ぶものは多かったし、一カ月を過ぎた今もおいしいお茶に喉を潤すしやわせな日々が続いている。やはし、お金はこんな風に効果的に使えばいいのねと、今日も精いっぱい負け惜しみをいい、一所懸命働くけなげな私である。

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青芯烏龍の茶葉(左)。摘むのは一芯三葉の芽の部分だけ。
くるくる丸まった茶葉が、大きな一枚葉になります(右)

台中で訪ねたオススメ茶藝館

無為草堂(うーうぇいつぁうたーん)
台中県台中市公益路二段106号
電話:04-329-6707
営業時間:10:00〜深夜1:00

池やお庭を眺めながら、お茶が楽しめる茶藝館。ここで飲める8種類のお茶は、すべて台湾中部産の烏龍茶。私はここのお店の「阿里山烏龍茶」がすきでしたが、店員さんのオススメは「杉林渓高山烏龍茶」(※いずれもこの店の呼び名)。

水曜と土曜の20:00から、台湾伝統音楽の演奏が楽しめます。冷房のある室内のお部屋と、外のテーブルがあってお好みで選べます。外のお席はとても気持ちいいのですが、虫除けスプレーが必要かも。

耕讀園 書香茶坊
(くんどうゆぇん・ふーしゃんつぁーふぁん)

台中県台中市市政路109号
電話:04-251-8388
営業時間:10:00〜深夜2:00

台湾全土に支店がある大手茶藝館の支店。台中に3店舗ありますが、ここは全支店のなかでもいちばん広いお店。敷地内には、鯉のいる池、柳の木、そして蓮の池があって、思わずお庭散策をしたくなります。

台湾産のお茶はすべて店のオリジナル。店のすぐ裏に本社があって、焙煎はそこで行なっているとか。台湾中部産のお茶は、特に人気の春茶と冬茶だけをおいています。またここでは、龍井(ろんじん)や香片(ひょんぴん)など、中国のお茶(大陸のお茶)も楽しめます。

※店名は地元で教えていただいた発音(北京語)を、中国のお茶の名前は広東語(私が慣れているため)を、いずれもひらがなで表記してあります。統一できなくてすみません。


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