「亜細亜くいだおれ」 November 23,1999
上海蟹、たべまくりー

牛嶋さんのイラスト 牛嶋 直美
ウシジマ・ナオミ

からだの組成の87%がチューカでできているちゅーか。残りの13%はタイ、ベトナム、インド料理でできてるちゅーか。
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上海には、上海蟹がたくさんいた。

ただしこれは上海蟹ツアーを終えた「私の妄想の中の上海」でのこと。実際には街のどこを探しても、市内で上海蟹を見ることはまずないのでご了承を。狭い香港など、上海蟹通り(勝手に命名しただけで、香港にこんな名前の通りはありません。尖沙咀のグランビルロード、銅鑼灣のジャーディンズバザーなど)へ行けば、シーズン中はただ歩いてるだけで上海蟹にぶつかる。そういう意味でいうと、上海の街に上海蟹の兆候はどこにもなかった。

驚くほど蟹がいたのは、虹橋地区のスーパーマーケット「家楽福」3階にある生鮮食品売り場。でんと設えられた大きな水槽には、何百杯もの上海蟹がうごめいていた。迫力に圧倒される。

私は特に大きくて元気なやつを目で追い、こいつを買おうと算段。しかし宿泊しているホテルに調理器具はない。頼むにも中国語知識ゼロだし。携帯コンロを買ってもいいけど、部屋で調理して煙を出し、万一ホテル内のスプリンクラー回すことになるといろんな意味で後が大変。

仕方なく調理を断念し、水槽前でさんざん活け上海蟹をデジカメ撮影した後、デリへ急ぐ。店内を一周しさっき見つけた上海蟹の醤油漬け。全身がうっすら茶色っぽいその上海蟹は、今思い出すだけで心臓がどきどきするほどのワイルド調理法。ってゆーか、上海蟹さまにそんなことしていいのだろーか。複雑な心境&保守派な私。そして身振り手振りで1杯注文する。

さて、ホテルの部屋。

蟹をおもむろにひっくり返し、オスの尖ったハカマをベリバリと豪快にはがして解体する。甲羅の内側には蟹味噌がみっちり張り付き、もう一方の身の下部分には糊状の物体がねっとり詰まっている。

両手で蟹をつかみ、思わずかじりつく。行儀わるく食べるほうがうまいとまことしやかに伝えられる上海蟹。果たして私もまったくそう思う。両手&口の周りをべとべとにしながら食べる。そりゃもー最高っす。これ、一杯丸ごと食べていいの? ホントにいいの? 食べちゃうよ私。ホテルでひとり、上海蟹を食べる行為にとてもコーフン。

がりっ。ふたつ目のハサミを前歯でかち割ろうとしたとき、いやな音がした。なんと、前歯が欠けてしまった。ひー。ひとり部屋で上海蟹の前哨戦としゃれ込んだが、結果は大惨事でトホホのお開き。やはり抜け駆けはだめね。

翌日は専門店で上海蟹ディナーを囲む。メインはもちろん「清蒸大閘蟹」(蒸した上海蟹)。

蟹は各自でオスメスを選び、すきに注文(ちなみに穴吹さんはオスを、私はオス、メス1杯ずつ)。ほどなくして上海蟹はやってきた。6人で10杯。なかなかに壮観。日本からやってきた観光客チーム全員がおもむろに立ち上がり、それぞれのカメラで撮影を始める。フラッシュの嵐。まるで上海蟹さま記者会見の巻。

蒸したてのあつあつを、まずはオスから。甲羅にへばりついたミソを、なめるように食べる。鼻に抜ける癖のある香り。そりゃもーたまらない。

次に箸の先で身をほじくりだし、ミソがすこしからまった白い物体をほおばると歯の裏側にねっとりからみついた。それを舌先で丁寧にはがしながらゆっくり堪能する。硬さは羊羹。ただしテクスチャーは栗蒸羊羹、或いはういろう、というか葛系の弾力を感じる。私は何よりその食感がすきなのだ。

日本に帰って上海蟹に関する記述を随分調べたが、今日までにこの「ねっとり」に言及する資料は探しきれなかった。だがこれはメスにはないので、単純だがこれこそオスの精巣と推測。メスが持つ濃厚な卵の誘惑も捨てがたいけど、卵は少々濃ゆすぎて、1杯分も食べると私の脳から「しばらく待ちなさい」と指令がくだる。

うにゅ系の食感が限りなくすきな個人的嗜好もあるが、オスのねっとりは口にほおばりながら、「明日もう一度食べていいかな、食べちゃおうかな」と、やたら習慣性のあるほどよいあっさり感を感じるのだ。

ところで、今回蟹を食べたレストラン王寶和では、張小泉という、上海刃物業界では老舗の蟹専用ハサミを使っていた。それはそれはよく切れた。これさえあれば、前歯など使う必要なし(当たり前か)。調理器具フェチとしては、次シーズンまでに必ず手に入れることを固く決意。まずは前歯を治し、次回マイ蟹バサミで上海蟹に再挑戦と、早くも来年の日程を考える日々なのである。

※上海蟹(大閘蟹)は、モクズ蟹の一種で河川や小沼など淡水で育つ。陽澄湖、澄湖など上海近郊の湖が産地として有名。秋がシーズンで、中国では「9月圓臍、10月尖臍」(旧暦の9月はメス、10月になるとオスがうまいといわれる)。どちらも珍味なので、おすきな方を。甲羅に紹興酒を入れて混ぜ、お好みで味噌酒を楽しんでも。ちなみにメスのハカマは丸いので「圓臍」、オスのは尖っているので「尖臍」といって区別。大きな蟹の足の身を食べ慣れてる日本人にはやたら小さく感じるが、意外に食べでがある。


山盛りの上海蟹にコーフン。裏側のハカマが尖ってるのがオス。


上海蟹を食べたお店

王寶和 (わんばおほー)
上海福州路603号
電話:(021)6322-3673
営業時間:11:00〜14:00、17:00〜20:30 要予約

創業して250年以上という上海蟹料理専門店。上海蟹は一年中食べられるそうだが、年間を通しての旬はやはり11月いっぱい。白いねっとりを食べてみたいならオス、鮮やかなオレンジ色の濃厚卵にうっとりしたいならメスを。

調理前の蟹はテーブルまで持ってきて見せてくれ、自分で選ぶこともできる。上海蟹づくしの料理が有名だが、うまいとはいえ慣れてない人には相当くどいので、蟹関係2、3品プラス家庭料理、というセレクトが私個人のオススメ。



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