| 「亜細亜くいだおれ」 May 23,2000 | |||
| カシミール空港の検査地獄 | |||
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「飛行機に乗るまで、全部で3回検査があるんだよ。X線がないところでは荷物を全部開けさせられるから、荷物に鍵があってもかけないほうがいいと思う」。空港へ向かう4駆のなか。事情を知ってる親切な南インド人のネシーさんが、さりげなくいった。 だけど彼のアドバイスを、わたしはちゃんと聞いていなかった。その日はシュリーナガルへ来て以来いちばんの快晴で、半端じゃない日差しの強さ。標高1700m、ただでさえ紫外線の量が多いのだ。「か、かおが焼ける。まぶたが腫れる。ヤバイ。ああシミになる〜」。日差しアレルギーのわたしは、その対策で頭がいっぱいだった。 ネシーさんの心配をよそに、ハーブの香りを車内に充満させながら、無神経にも白いクリームを顔や体に塗りたくっていた。空港であんなにたいへんな思いをするなど、想像もしていなかった。 最初に到着したのは、空港直前のチェックポイント。小さな小屋の前で停車すると、荷物を全部下ろすように指示される。げげ。面倒くさい。どうしてもダメなのかなあ。甘えた気持ちで小屋の中を覗く。中はビシッとした機関銃兵士でいっぱいである。うわ。こりゃダメだ。 カシミール人が、ルーフからスーツケースを下ろしてくれる。だが、そこからX線チェック用の台へ運ぶのは自分たちの仕事だ。わたしの旅行荷物は人並み以上に重く大きいが、持つのは大嫌い。いつもなら自費チップでもポーターを雇っているところ。だけどここにいるのは厳しく訓練された兵士のみ。 しぶしぶ荷物の移動を始める。スタッフ全員、疲れていっぱいいっぱい。甘えるわけにはいかないのだ。さらに通訳は出張直前に骨折した怪我が治っておらず、重いものを運ぶのは無理。彼の分はわたしが運ぼう。いつもの出張とは違うのだ。自分に厳しくムチを打つ。ぴしぴしぴし。 たった数メートルの移動で、喉がカラカラになる。腰もいてえ。しかしどうにか終わり、次はボディチェック。わたしだけ女性用の小部屋に入る。女性兵士が5人いた。機関銃だか自動小銃だか知らないが、とにかくでっかい重そうなヤツをそれぞれが抱えてる。かっこいいけど、迫力ありすぎ。 まな板のコイは小さくなって台に上がり、チェックしやすいよう両手を軽く挙げるのだった。荷物も体も問題なく検査を終了するが、問題はもう一度あの荷物をクルマへ積み込むことだった。荷物の山を見るだけでやりきれない気持ちになる。 再び、車まで数メートルの移動を黙々と繰り返す。「だけど、これさえ終われば」。またも自分にいい聞かせるわたし。無事に荷物を積み込むと、全員がうんざりした様子でクルマに乗り込んだ。カメラマンは相当きびしくチェックされていたが、イラつくこともなく平然としている。大人だ。そうそう、わたしも見習わなくてわね。 空港へ到着。荷物を機内へ預ける。ああこれで楽になる。と思ったが、それは大間違い。チェック地獄は始まったばかりである。問題なのは預ける方でなく、機内持ちこみ荷物のほうだった。 女性専用のカウンターへ行くと、バッグの中身を全部出させられた。3人の女性兵士が順番に検査を始める。ノート、ダイヤリー、アドレス帳、ミノックス(カメラ)、日本円財布、インドルピー財布、パスポート、ペンケース、スーツケースに入れ損ねたお風呂アヒル、名刺入れ、携帯電話、ピアス、マニキュア、薬、歯ブラシ、化粧ポーチ、ティッシュ、ウエットティッシュ、ハンカチ、ティーツリーのエッセンシャルオイル、日焼け止め、サングラス、ニーマンマーカスのミントキャンディ1缶、殻つきアーモンド10個、クルミ1個、ガムの包み紙。 カウンターの上にすべて並べられる。心のなかで「やめてー」と赤面。だらしないのがバレバレである。化粧ポーチのなかは特に気になる様子で、イヤーウイスパーやコンタクトケース、マスカラやリップペンシルまですべてキャップを開けて調べられた。 ヘアゴムはびゅんびゅん伸ばしている。そそれは違う興味では。なにしろここまでを係りの3人が順番に繰り返し、そのひとつひとつに説明を求められるのだ。恥ずかしすぎるが、もうそれどころじゃない。 バッグ1つのチェックに、たっぷり15分かかった。しかしホッとしたのもつかの間で、すぐに2番目の手荷物を開けさせられた。PCバッグは、担当が違うのだという。中身はシンクパッド240とフロッピードライブ、そしてマビカ(デジカメ)、フロッピー12枚。ひとつひとつ出して調べる。フタは全部開ける。フロッピーは1枚ずつチェックしている。再び「これは何?」と聞かれ、そのたびに「それはフロッピー」「それもフロッピー」と説明を繰り返す。 ううきっと、みんなを待たせてるんだろうなあ。時間が気になった。が、ふと横を見ると、男性専用のカウンターでも同じ惨状が繰り広げられていた。ああそうなのか。潔くあきらめよう。肩を落とすわたし。女性兵士がわたしを呼びにきた。「あの小部屋に入って」。どうやら、ようやく次のボディチェックへ進めるらしい。 中へ入ると担当の女性がいった。「バッグを開けて」。うそでしょ。カウンターからまだ5mしか歩いてないじゃん。 「さっき、あんた見たでしょ。ほらそこで」。日本語と英語とボディランゲージでクレーム。だけど彼女はひとつも悪びれる様子はなく、最初から同じことを始めるのだった。ノート、ダイヤリー、アドレス帳、ミノックス(カメラ)、財布、ペンケース…。 気の遠くなるような検査で心身へとへとになり、口を開く元気もない。全員ほうほうのていでカフェへ行き、チャイを注文。温かいお茶で口を湿らせると、ようやく少しホッとする。 そろそろ行こうか。搭乗口へ向かうと、再び悪夢の検査が待っていた。改めて荷物をX線にかけた後、女性兵士が再びわたしのバッグを開けて、中身を取り出した。ノート、ダイヤリー、アドレス帳、ミノックス…。ああ。もうどうにでもして。 終わってホッとした瞬間にやってくる次の検査。これ以上考えられないホド、毎回それは厳しくしつこく行われた。これまでアメリカ系航空会社の警備は「結構キビシイ」と思ってたけど、これに比べたら屁でもない。 国内線に乗るだけなのに「空港へは3時間前に到着したほうがいい」。そういえば、カシミール人のひとりがいっていた。この面倒なセキュリティのことを指していたのだろう。「まったく大袈裟なんだから。やだねえ。そんなバカなことあるわけないじゃん。ねー」。平和ぼけ日本人の頭では、この切羽詰った状況を想像することはできなかった。 数ヶ月前に国内線飛行機がジャックされ、凶器を持ったテロリストに外国人観光客が殺されたという。それ以来、特にカシミールからデリーへ向かう飛行機のセキュリティは異常な厳しさになったそうだ。ちなみに搭乗客の荷物で問題になるのはバッテリー。わたしのくだらない荷物は問題なかったが、カメラマンがもっていた大量の単三電池とセキソウ電池は、すべて乗務員に預けさせられた。 国が違えば事情も違う。それは仕方のないことだ。確かに腹は立ったけど、危険なよりはずっといい。厳しい検査の特訓で、ひと皮むけたわたしである。 ![]() カシミール特産の殻つきアーモンド(左)。わたしのバッグの底には、これが10個、直にぽろぽろと入っていた。ちなみにわたしはこの殻を靴で踏んでも割ることができなかったが、これをくれた体格のいいカシミール人ドライバーは、親指と人差し指でパチンと割った。ちなみに手の下に見える布は、カシミール刺しゅうのテーブルクロス。 空港での唯一の癒しの時間は、チャイとケーキでのティータイム(右)。ほんの15分だったけど、日差しの入るカフェはとても気持ちがよかった。インド風には砂糖をたっぷり入れて飲む。
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