「亜細亜くいだおれ」 August 1,2000
インドのかわいい名の食品

牛嶋さんのイラスト 牛嶋 直美
ウシジマ・ナオミ

からだの組成の87%がチューカでできているちゅーか。残りの13%はタイ、ベトナム、インド料理でできてるちゅーか。
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「Papad」と書いて「パパル」と読む。

ローマ字読みに慣れてるとうっかり「パパドゥ」と読んでしまうが、ヒンディ語の発音にはいくつかの法則があって、なぜかこれはやっぱり「パパル」と発音するそうだ。さらに「Vada」は「ワラ」で、「Idly」は「イッティリ」。まだ未知の世界のわたしにとって、ヒンディ語ってなんか不思議。

たまたまこれらスナックを食べる機会が多かったせいか、それとも単に音がかわいいせいなのか。デリーにいる間中ずっと、なぜかわたしの頭の中ではこの3つの名前が繰り返しぐるぐると回っていた。

「パパル」は、インド便機内食でもおなじみの「極薄せんべい」。原料はダール粉(豆の粉)で、高温の油で両面をさっと揚げるか、カラリとローストして食べる。ダール粉と一緒に練りこんだ黒胡椒の辛味が適度に効いていて、キリッと冷えたビールにこれがやたらよく合う。

「ワラ」は南インドのスナック。リング状のドー(タネ)をこんがりキツネ色に揚げてあり、どっからどう見てもドーナツ。ただし実際はお菓子ではなく、「ナン」(タンドールという釜で焼いたパン)や「チャパティ」(全粒粉のパン)のように、カレーをつけて食べる主食系。ときには青唐辛子入りのスパイシー・バージョンもあって、ホテルの朝食ブッフェでうっかり甘いドーナツと思ってほおばると、「あわわ」と大慌てすることに。南インド人の友人によると、「ワラ」の材料はパパルと同じダール粉だそうだ。

「イッティリ」は、ダール粉に米粉を混ぜて作ったスナックで、やはりこれも南インド料理。専用の器具にドーを流し入れ、一気に蒸しあげる。形は直径6cm程度の白い円盤状で、食感は鹿児島の「かるかん」にそっくり。そのせいかわたしにはやはりお菓子感があったのだが、ジツはこれも「ワラ」同様サンバー(野菜カレー)などにつけて食べる。ついでにいうと、南インドには「イッティリ」と同じドーを使う「ドーサ」というクレープ状スナックがあって、わたしはこのドーサも大好きである。

さて。

これまでの短期出張中にデリーで仲良くなった4人のインド人は、それぞれがジャイナ教徒、ヒンドゥー教徒、スィク教徒、そしてイスラム教徒という違う宗教の敬虔な信者である。「困ったときだけ神頼み」のわたしには不思議な感覚だが、「人の数だけ宗教がある」インドでこれは当然のコトらしい。

もちろん、誰がどんな宗教を信仰していようとわたしが困る理由はひとつもない。ちょっと気になることがあるとすれば、それは全員でテーブルを囲む食事の時間だった。

同じインド人でも、それぞれの宗教によって食事や習慣に細かい規則があるのだ。例えばその4人の場合はこうだ。

ジャイナ教徒は肉を一切食べず食事はすべて野菜のみ。豚肉を不浄と考えるイスラム教徒はチキンとマトンならOK。やはりチキンやマトンは食べるが、水曜日は「自分で決めた聖なる日」で肉食をしないスィク教徒。ヒンドゥー教徒は、シヴァ神の聖なる乗り物である牛肉を決して口にすることはないのだった。

それぞれを巡る環境や決まりごと。子供の頃からの習慣なので、破ることはありえない。かといって、それを他人に押し付ける愚行は一切ないから、ガイジンのわたしが気にする必要はまったくない。

全員が食べられるものといえば、野菜、ヨーグルト、チーズ、そして豆である。そーなのだ。宗教の教えにより食べるものがバラバラなインドの人々にとって、これら豆で作られたスナックや主食は、たいへん栄養価が高く、みんなが共通して食べられる(これが肝心なように思われたが、それはどうもわたしだけの意見)大切な大切な食材なのだった。

好きキライなく何でも食べること。テーブルを囲む全員が同じ料理を食べること。それを「よいこと」として育った保守派のわたしには、いくら「気にするな」といわれても、「あの人が食べられないのに、これを頼んだら悪いのでは」、「やっぱベジタリアンレストランへ行ったほうがいいのかな」など、最初はどうしても「後ろめた感」が拭いきれなかった。「なるべくみんなで食べられるモノを注文する」それが「=よいこと」と勘違いしたのだった。

インドの友人たちは、最初から「気にしなくていい」と口をそろえた。頭ではわかっても、感覚の切り替えがなかなかできないもの。やはし「平均」や「同じ」ことに重きを置く生粋日本人なのだなあと、そのたびに実感したわたしである。

けど、個性的な人々と楽しく食事をすることで、それは決して善悪の問題じゃなく、違うことが「当たり前」なのだと、ある日突然すっかり納得できる夜が訪れた。それは、慣れれば意外に居心地がいいなと思う、インド人に近づいた一瞬なのだった。




手前のドーナツ状のものが「ワラ」。左の「サンバー」(野菜カレー)をつけて食べる。ちなみに平らなパンケーキ状のものは「パランサ」(インペリアルホテル「アトリウム」の朝食ブッフェにて)。

パパル、ワラ、イッティリ、ドーサが
いつでも食べられるお店


SONA RUPA RESTAURANT(ソナルパ・レストラン)
住所: 46 Janpath, New Delhi
電話番号: 332-6807
営業時間: 11:30〜22:30

インペリアルホテルの対面にあるベジタリアンレストラン。ファストフード店風の簡単な造りだが、南インドのスナックが気軽に食べられる。メニューをよく見ると、中国料理やらピザやらサンドイッチまであるのがおかしい。

どこの国でも「故郷の味がイチバン」のようで、わたしが行ったある夏の日の夜は、色の黒い南インド人でたいへん混雑してました。「Idly Sambar」(イッティリと野菜カレー)35ルピー(約105円)、「Vada Sambar」(ワラと野菜カレー)40ルピー(約120円)、「Fried Papad」(パパル)20ルピー(約60円)、「MasalaDosa」(カレー風味のジャガイモ入りドーサ)55ルピー(約165円)。


 

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