| 「亜細亜くいだおれ」 September 5,2000 | |||
| どでか月餅の季節 | |||
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「月餅」といえば中村屋。子供の時分、うちでは常識だった。 その常識がくずれたのは1984年。忘れもしない。ロサンゼルスオリンピックの年というか真っ最中で、ホテルの部屋のテレビには男子体操競技の模様が流れ、西洋人選手の名前が英語と漢字のテロップで表記されていた。 当時わたしは、2度目の香港を謳歌していた。安いツアーを見つけ、遠く新界(さんがい=香港郊外)は沙田(さーてぃん)の新しいホテルにチェックイン。その日は軽くショッピングと観光でもしようと、繁華街の尖沙咀(ちむさあちょい)へ、のんきにバスで向かった。 そして、ネイザンロード沿いにある百貨店の店先で、まるで化け物のような「本当の月餅(ゆっぺん)」を発見して驚愕する。1辺が約10cm、しかも高さが5cmほどもある。実際はもうすこし小さかったかもしれないが、わたしの目にはそれほど大きく迫力たっぷりに映った。 か、からだにわるくはないのか。 だけど店はどこも黒山の人だかり。彼らは1個でも十分な大きさの月餅を、複数単位でばんばん買っている。しかも、なぜ缶ごと買うのだ香港人っっ。 月餅は片手に持って軽くかじって食べるもの。調子がよければ2個なら軽い。そう認識していた「つま先まで」日本人のわたしに、両手でしっかり持たなければ落としそうなほど「大きくずっしりと重い」月餅は、ひどく無神経に見えた。けど、ものは試し。いくつか買って食べることにした。当時は廣東語など未知の言葉だったが、漢字なら少しはわかる。 確か、5人で5種類の月餅を買った。 1つ目は中身が甘く茶色いあん状のもので、どうにか月餅と認識できたが、2つ目の中央にはしょっぱい卵の黄身が丸ままゴロンと存在を主張、3つ目はナッツがぎっしり詰まった超ヘビー級で重すぎてたまらず、4つ目は糸状に切ったココナッツがそばのようにひしめく乱暴な内容、最後の月餅にはなにやら肉らしき塩味のものがねっとり固まっていた。これは無神経にも「ほどがある」のではないか。 気を取り直してスターフェリーに乗ると、子供たちがかわいい提灯をぶら下げている。船、飛行機、車、月、そして金魚。ほ、欲しい。かわいくてたまらない。どこに売っているのだ。興味は月餅から提灯へ移る。そしてまた、これから行こうとするビクトリアピークへの期待で胸ふくらむのであった。 中秋節は豊穣を祝う祭り。その日人々は、提灯を持ってビクトリアピークや公園へ行き、一年でいちばん美しく丸い月を愛でる。さらに家では果物と木の実、月餅を月の神様に供え、家族全員が集まって一緒にごちそうを食べるのだ。そして中秋節が終わった瞬間、上海蟹とともに秋がやってくる。 ビクトリアピークは、前回訪れたときとはまるで違う様相だった。驚くほどの混雑で、とにもかくにも人であふれていた。当時のピークタワーは円形のレトロなビル。屋上のTR階へ行くと2ドルの有料展望台があり、そこから360度の夜景が楽しめた。しかし今日ばかりはここも人、人、人である。中秋節は当日でなく翌日がお休みなので、みんな夜遊び三昧なのだ。 展望台から出ると、わたしはすぐに提灯売りを見つけ、カラフルな魚型の提灯を買った。これでみんなと一緒である(ただし子供)。なんだか地元に同化した気分になり、そんな些細なことがやけにうれしかった。 あれから16年。縁起ものの大きな重い月餅は、今やわたしの大好物である。多くの一般的な香港人と同じように、とくに蓮蓉(りんよん)とよばれる蓮あんが気に入っている。むっちりした薄い餅皮の月餅もハーゲンダッツのアイス月餅もいいが、やっぱりオーソドックスなタイプがイチバン。 あんの中の鹹蛋黄(はむだんうぉん=塩漬けアヒル卵の黄身)は、おもしろいのでともだちには2個入りを勧めるが、個人的な好みでいえばひとつがベスト。さらに何でもたいてい「丸ずき」のわたしには珍しく、月餅に限っては絶対に四角なのだ。理由も意味もなく、小さく切ったときに不ぞろいなこっちのがかわいいという、これは単なる感覚的なものである。 自分でも月餅を作るつもりで、上海街(しょんほいがーい=香港の合羽橋)では、月餅の型も買った。もちろんお気に入りの四角いやつだ。だけど、実際に自分でやろうとすると結構たいへんなのである。粉まみれで生地を練るのには広いこね板と相当な体力がいる。ぐうたらで体力の乏しいわたしは、残念ながらまだ未体験のままだ。 そろそろ今年もあの季節。「大きくて重くて甘くて塩漬け卵の黄身ゴロン」が、今、わたしは真面目に恋しい。今年の中秋節(旧暦8月15日)は9月12日。今ごろは香港人の友人たちが、月餅セットの予約に奔走している頃だろう。 セミの声を聞きながら、ミレニアム月餅に思いを馳せる夏の終わりである。 ![]() ![]() 上右:中秋節のお供えをかたどった、素焼きの置き物。お供えは、慈磨iじーくー=シロクワイ)、栗子(ろっじー=クリ)、菱角(りんごっ=ヒシの実)、馬蹄(まーたい=クロクワイ)、合桃(はぷとう=クルミ)、瓜子(くゎじー=カボチャの種)、花生(ふぁーさん=ピーナツ)、白果(ぱっぐぉ=ギンナン)、葵花種(くゎいふぁーじー=ヒマワリの種)の9種類。 上左:月餅の型。まずは卵入りの重いあんを皮で包み、お饅頭状に丸めた月餅のタネを、この中にぎゅうぎゅう押しこむ。はずすときは木型を横にしてたたき、はずみで中身を取り出す。ちなみにこの型には「純正蓮蓉」(すょんじんりんよん=蓮あん100%)の文字が。けど、いまだ月餅に挑戦していないわたしは、この型を普段は木槌替わりに使用。なにしろ丈夫で、エレクターの組みたて&分解には欠かせない。むくんだ足をとんとんマッサージするにも、結構便利である。 下:手元に提灯の写真がなく、だけどどうしてもかわいらしさを伝えたかったので、友人からイラストを借りてきました。これはイラストレーター・おおのきよみさんが書いた、マレーシアの「ムーンケーキフェスティバル(中秋節)」の様子。提灯の種類は、国によってもいろいろあるよーです。 |
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