| 「亜細亜くいだおれ」 January 23,2001 | |||
| じゅーふぇんの元祖おーいん | |||
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台北のホテルを出るときから雲行きは怪しく、九分(じゅーふぇん)舊街のバス停に着いたときは、すでに1m前が見えないほどの土砂降りだった。冬の台北は、すぐに天気がくずれる。なかでもこのあたりは特に雨が多いという。ちっ、ついてない。 傘を開く間もなく、後ろから追われるようにバスを下りたので、あわてて軒下へ避難する。ジャケットのボタンをとめて傘をさし、一度深く息を吸って呼吸を整え街へ入る。とにかくひどい雨だった。 コンビニの脇の細い路地は、傘を差したままでは人ひとり通るのがやっと。街に入るとすぐ、路地の両脇にびっしり並ぶお土産物屋さんが目に入る。ふーん、こんなとこなのか。ちょっと期待はずれ。なんの根拠もないが、九分という街に、昔香港にあった九龍城的魔窟感を思い描き、大きな期待を込めて第一歩を踏み出したのだった。なんだかしりすぼみ。けど、よく考えたら同じなのは「九」だけだ。 九分は侯孝賢監督の「悲情城市」のロケ地で知られる場所。1世紀前には金鉱の街として賑わったそうだが、今やその片鱗は博物館に残すのみ。そして、わたしの目的はまったく別のところにあった。士林の本屋で、台湾小吃ガイドを立ち読みしてるときに見つけた芋圓(おーいん)である。 芋圓は、タロイモを蒸してつぶし、白玉粉と混ぜ、長く棒状に伸ばして切ったちびっこ団子。それは小さいマシュマロ形で、くすんだ灰色をしている。噛むと独特の歯応えがあって、うにくにゅ系フェチにとってはもうたまらない食感。台湾の夜市へ行けば粉圓(白玉だんご)と並んでフツーに食べられるが、芋圓の故郷は九分という。 その店は九分小学校のすぐ下にあった。 超有名店と聞いて想像してたよりずっと小さく、質素な店だった。中をのぞくとどこも粉だらけで、なんの根拠もないが町工場のような印象。けど、老舗なんてそんなもんか。とにかくわたしはその有名な芋圓が食べられるうれしさににんまりしながら奥へ入り、「芋圓ひとつね」といった。どきどきと胸は高鳴る。 けど期待に反し、お兄さんはカシャンカシャンと乾いた金属音を響かせ、薄汚れた大鍋の底に貼りついたアズキをすくい、紙のカップに流しこんだ。カップを手に持つと、なんだか生ぬるい。特別感からはほど遠く、ふっと気が抜けてしまった。 芋圓はつやつやしておいしそうだし、まいっか。気をとり直し、粉まみれで汚れた机に座ろうとすると、お兄さんがいった。「そこじゃない、奥に行きなさい」 いわれるまま、濡れた傘とバッグと芋圓を持って、奥へ向かって歩く。途中、粉だらけの道具に埋もれるように立つ男の人がいた。彼は、忙しそうにひたすら大きなタロイモの皮をむいている。さらに進むとそこは民家のリビングで、じいちゃんが日本語のテレビ番組を見ていた。 「すいませんねえ」と日本語で挨拶し、じいちゃんとテレビの間を通りぬけ、さらに進んで行く。奥にはあの外観からは信じられない、広いスペースがあった。一面がガラス張りで、そこから九分の街の裏側が見渡せる。声も出なかった。 九分は昨年の大雨で土砂崩れに遭ったと聞いていた。現場がどこかを聞くまでもなく、その痛々しい姿が目の前に広がっていた。台湾人の先客が数名いたが、誰もがただ静かに、ガラス窓から外の残酷な景色を眺めながら芋圓をすすっている。 へんな店。わたしはすっかりこの店が気に入ってしまった。じつは九分の街へ足を踏み入れた瞬間、目の前に芋圓を売る店を見つけ、友達とわたしは無神経にもその店で一杯ずつ食べていたのだ。雨に濡れてさぶかったし、お腹もすいてたし、芋圓はそこそこおいしいと思った。 けど、この店の芋圓は、歯応えがまるで違った。ひと口噛めばすぐわかる。コシが強く、きゅっきゅしている。士林夜市で食べたやつより、雙蓮の屋台で食べたやつより、ずっとずっとおいしかった。芋圓って深いと思った。 帰りがけ、ちっちゃいばあちゃんに会った。頬と手がぷよぷよしていて、真っ白な肌がとてもきれい。あまりのかわいらしさに、思わずさわりそうになる。すると、突然ばあちゃんが日本語で話しだした。「芋圓はわたしが作ったんだよ」。ひゃー。 あわてて「このタロイモは九分で採れたものなんですか?」と聞く。なんで九分の名物が芋圓なのか、ずっと不思議だった。「いんや。タロイモは台中から買ってる」 芋圓は誰から教わって作ったのか、どういうきっかけで作り始めたのか、なんでタロイモとサツマイモと緑豆なのか。聞きたいことが山ほどあったので何度か質問を繰り返す。けど、ばあちゃんには残念ながら通じないようだった。友達に中国語に訳してもらったりもしたが、ばあちゃんは耳も遠かった。すると、ばあちゃんが再びいった。「芋圓を最初に作ったの、わたしだよ」 質問はどうでもよくなってしまった。せめて「この店が最初だと、そう聞いて来たんです」と伝えたかったが、ばあちゃんにわたしの日本語はむずかしすぎた。ばあちゃんには初めて会ったのに、なんだか別れがたく、急に悲しくなった。ある意味セクハラだが、無理やり顔をぺとっとくっつけて写真をとったり、真ん丸いぷわぷわした手を両手でぎゅっと握ったりした。かわいくてたまらなかった。 ばあちゃんはわたしに「土産に買ってくか」といった。「もういっぱい買いました」と持っている袋をすこし上げて見せ、店を後にする。雨はまだ相当にひどい。ばあちゃんに会えたし、店はすいてたし、やっぱ今日はついてたのかなー。などと思い、お土産の芋圓を片手に、わたしたちはゆっくり階段を降りていった。 ![]() ![]() ![]() 上左から順に。店構えはとても地味で、こぢんまりしてます。ずっと変わってないのだそうです。それこそ老舗なのかも。階段の上にうっすら見えるのが九分小学校。 これが芋圓。歯応えむっちりの白玉団子です。グレイのがタロイモ、やまぶき色のがサツマイモ、お抹茶色のが緑豆風味。 店に入ってすぐが作業場で、一日中こうして作業をしてます。現在、九分の街には芋圓の店がたくさんあって、こんな姿をいたるところで見かけました。 これが生の芋圓。買って帰れます。1種類でも3種類でもお好みで。この店の芋圓はやや大きめで、他の店のに比べてコシが強いです。 奥には、入口からは想像できない広さのスペースがありました。外の景色を見ながらゆっくりできます。 台中からやってくる材料のタロイモは、店の奥でこうしてむいています。蒸して白玉粉と混ぜ、団子にします。
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