「亜細亜くいだおれ」 March 20,2001
足のツボのあとは鶏肉飯

牛嶋さんのイラスト 牛嶋 直美
ウシジマ・ナオミ

からだの組成の87%がチューカでできているちゅーか。残りの13%はタイ、ベトナム、インド料理でできてるちゅーか。
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無類の漢方好きである。

だから香港で木っ端を煎じた土色の濁った汁を「一気に飲め」といわれても、台湾で黒と赤の丸々を一ぺんに「50個飲め」といわれても、喜んでいうとおりにする。

東京の住まいには乾物棚があり、冷蔵庫には常に枯葉とか木っ端とか、へんな匂いのする木の実や粉末、乾いた根っこも山盛りだ。さらにお風呂には、臭くてどろどろした液体入りボトルがずらり。健康のためとあれば、多少カラダにわるそうなこともへーきでしてしまうのが、たぶんわたしのような健康フェチの特徴なのだと思う。

東洋医学の考え方によるエステも、アジアのいろんな場所で、自ら好んで体験してきた。

額にごま油をたらし、髪の毛からつま先まで全身ぬるぬるになるインドのシロダーラ。山盛りの乾燥ヨモギに火をつけ、その煙でいぶされる韓国のヨモギ蒸し。箱の中で臭い漢方薬入り蒸気にまみれる台湾の薬草サウナ。香港の推拿(とぅいな=指圧、整体、マッサージをミックスしたような治療法)や、ハリやお灸にもごくフツーに通ってきた。だけど、そんなわたしにもたったひとつ、好きじゃないものがあった。

台湾の足ツボマッサージである。

中国式の太くて長いハリはまったくへーきである。なのに、なぜか足ツボだけは苦手だった。痛いのはいや。できればなるべく避けて通りりたいもの。けど、そのイヤな体験もときには重要な仕事である。断ってばかりもいられない。いやでたまらないけど、どうしても行かねばならなかった。

取材のため訪れた台北。その日わたしは、そんな腰の引けた状態で、診療所へ出かけたのだった。

陳先生は細面で、思っていたよりずっとやさしそうに見えた。先生は、診療用のイスに座ったわたしの足をすぐに診察しはじめた。

「ぐいぐいっ、ぐいっ」。足の裏、足の指、足の甲を先生の指は繊細な動きで移動し、なぜかあらゆる痛いところだけをぎゅぎゅっと推す。「いいい、いたっ。いたいー。ですー」。先生は、わたしの悲鳴をまるで無視し、通訳を介して話しはじめた。

「まず、足の形がへんです。靴が合ってないから、歩き方が悪いんですね。それでカラダに負担がかかる。ヒザと腰が悪いですが、もとはといえばそれも歩き方の悪さが原因」

わわわわわ。あせるわたしに、先生は容赦なく続ける。

「随分疲れてますね。いつもいろいろ考えすぎて、神経が休む暇がないんです。毎日すこしずつでも、リラックスする時間を作った方がいいでしょう。姿勢の悪さから、坐骨神経痛があります。腎臓が少し熱をもっていて、扁桃腺も腫れてます。ストレスのせいで、ホルモンバランスがくずれていますね。眼精疲労もあります。あと、リンパの流れが悪いので、体内の循環をもっとよくしないと」

まるでいいとこないじゃん。真面目に落ち込むわたし。いや、悪いのはわかった。けど、じゃあどうすりゃいいわけ? 痛い思いして恥ずかしくて終わりなんて、中途半端もいいとこ。結局、その悪いとこばっかりの症状ってよくなるわけ? 頭のなかは半分パニックを起こしていた。

そして先生は、指に力を入れて、さらにぐいぐいと強く推すのだった。ひ。ひええええ。

我慢に我慢を重ねた。するとそのうち、急に、左足の太腿の皮膚が「ふわん」とやわらなくなった。あれれれれ。なになになに。なに。なにこれ、一体。

奇妙な感触だった。自分の左足に、生温かいものが「ぬるっ」と、上の方へ流れていくのがわかった。それは皮膚の表面のことではなく、足の内側で起きていた。そしてその瞬間、足の皮膚がふわんとやわらかくなったのだった。実際に手で足の表面を触れたわけではないから、本当にやわらかかったのかどうかは不明だが、それはとにかく、とても不思議な感覚だった。

代謝の悪さは、漢方の診断でいつも指摘されること。だからひとつも驚くことではなかった。でも、「その部分」の代謝のわるさは私自身しか知らないはず。例えば原稿書きが続いて、ずっと同じ姿勢で机に向かっていると、決まって「その部分」だけ、麻痺して痺れた。あまりひどいときは、ハリの先生に相談してお灸とハリで痺れを治してもらうことがある。けど、それは見た目や触っただけで、外側からわかることじゃない。いつだって、その状態になったとき自己申告をして治してもらってきた。

この日、わたしは痺れてることにすら気付いてなかった。なぜなら、その「麻痺した足」がすでに普通の状態だったからだ。なのに陳先生は何もいわず、一瞬でそれを治してしまった。

東洋医学の施術は、ときどきなんだか超魔術っぽい。けど、先生にいわせるとそれは「当たり前のこと」だといった。驚くことでもなんでもないんだそうだ。「肩こり」という概念を知らない外国人の友人が、「肩は凝ったことないけど、首がひどく痛くて」といってるのにすこし似てる気もする。「循環と代謝が大切」と、中醫の先生からいつもいわれるけど、それは体の流れを自分で感じてこそ初めてわかるのだと、この日わたしは実感したのだった。

扁桃腺の痛いのも、ドライアイのしばしば感も、左の腎臓が痛いのも、施術後だんぜん楽になっていた。認めるのはすこし悔しかったが、確かに効き目があった。治療そのものはやっぱり好きじゃない。けど、次に台湾へ行ったら、絶対また陳先生に足の裏をぐりぐりしてもらおうと心に誓うわたしだった。

施術後すぐには感じなかったが、バスでホテルへ戻るとひどくお腹がすいたので、ひとり、鶏肉飯を食べに出かけた。台北の町で、気軽に食べられる丼ごはん。やっぱ、足ツボの後はコレに限るのだ。




「鶏肉飯」の味の決め手は醤油風味の特製だれ。大鍋で豚肉の脂身をとろとろに煮込んで作ります。

小ぶりの茶碗に熱々の白飯をよそい、蒸し鶏をのせ、醤油だれをかけた「鶏肉飯」。たれがしみたごはんが美味。ちなみにわたしは、炒めキャベツと一緒に食べるのが好き。



鶏肉飯を食べたお店

嘉義鶏肉飯 梁記
住所:台湾台北市松江路90巷19號
電話::(02)2563-4671

香港では、おかずとしてちゃんとした(???)魚旦を食べることもできる。老舗の粥麺専家や香港家庭料理の店へ行って、ぜひその独特なおいしさを味わってみて。

昼食どきには行列状態の、「鶏肉飯」専門店。「鶏肉飯」は、台湾中部にある嘉義という地方の名物料理。こってりした醤油風味のたれで食べる蒸し鶏ごはんは、ちょっと癖になるおいしさ。


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