「亜細亜くいだおれ」 July 24, 2001
らいちーもいろいろ

牛嶋さんのイラスト 牛嶋 直美
ウシジマ・ナオミ

からだの組成の87%がチューカでできているちゅーか。残りの13%はタイ、ベトナム、インド料理でできてるちゅーか。
バックナンバー


お餅の糯米磁(のーまいち)も好きだが、7月の糯米磁はもっと好き。

香港には糯米磁という、うにゅっとしたお餅があると、1999年12月7日のコラムで書いた。

あれは駄菓子のおはなしだったが、糯米が廣東語で「もちごめ」を表すように(日本語でもそーでした)、糯米磁というのは「うにゅ」系お餅の総称を表す言葉でもあり、白いウサギさん型のものやぽてっと丸いのもあったり実際にはとても種類が多い。とりあえずその特徴は、どれもが「もちもちっ」とか「うにゅっ」としてること。

毎年7月になると、香港にはもーひとつの「もちもちっ」とした糯米磁が市場に出回るが、それはお菓子屋さんではなく果物屋さんの店先。

その正体は、茘枝(らいちー)である。

日本で茘枝といえば茘枝だが、香港の茘枝にはいろいろな種類があって、「糯米磁」、「桂味」(くゎいめい)、「三月紅」(さぁんゆっほぉん)など、それぞれの品種名で店頭に並ぶのが一般的である。街角の果物屋さんでそのヘンテコな漢字名を見て、「はて? これは茘枝ではないのですか」と疑問に思ったことのある旅行者も多いはず。

これは、茘枝が種類によって甘味と食感、種の大きさに格段の差があることが理由である。「茘枝」と書くより、人気品種名の「糯米磁」を強調したほうが、客の食欲をそそるのにずっと効果的なのだ。丁度、日本で「さくらんぼ」を品種名の「佐藤錦」と書いたりする感覚。そーいえばわたしも「桃」を選ぶときは「白桃」か「白鳳」、「梨」なら「幸水」である。

つまりそんな品種のひとつが「糯米磁」。名が体を示す通り、その食感をひとことでいうと「もちもちっ」。ナイフの刃先を当て、ぷるりっと皮をむくと、ぱんっと威勢良く実がはじけてくる。これは大げさな話ではなく、特に熟した新鮮な糯米磁の弾力はすごく、うっかりするとポンッと手からすり抜けて床にぽよんぽよんと転がるほど。今回の滞在で、同じ過ちをうっかり2度やってしまったわたし自身の体験である。ホントにもったいないことをした。

「糯米磁」が他の茘枝と違うもうひとつの特徴は、種がきゅきゅきゅっと小さいこと。次の人気種である「桂味」(くゎいめい)も、それは同様。種が真ん丸で大きい「三月紅」や「掛緑」(ぐゎろっ)などに比べると、とにかく果肉部分が「うあっ」と感動するほど多い。

以前、ハワイのアジア料理店で「もぎたて茘枝」を食べたとき、友人の手前口に出してはいわなかったが、香港でおいしい茘枝を食べつけた罪な舌には「まるで駄目」な果実と思った。ベトナムのミトーでもしかり。いずれも新鮮なためジューシィではあったがまるで味はなく、種は真ん丸で実が痩せすぎている。

「桂味」は「糯米磁」の次の人気種で、ゴツゴツした皮が特徴。名前の由来は、「口に入れたとき、鼻にぬけるほんのりした桂花の香り」とのことだが、実際には(あくまでわたしの鼻では)いくつ食べても「きんもくせい」の香りは感じない。糯米磁のほうが味は濃厚で甘味は強いが、ジューシィという意味では桂味の勝ち。実際には「桂味」の方がすきという香港人も多く、この2種に関していえば「おいしい」はあくまで好みの問題と思う。

丁度そんな茘枝の盛りの香港で、「2001年茘枝品賞会」(いーれんれんやっにん らいちーぱんしょーんうい)が行われると聞いて、わざわざ席を予約して講演を聞きに行った。

中国茶館で行われたその会は、実に盛況であった。思い出しても「ぷぷぷ」と笑うくらい、みんな茘枝大大大好き。わたしたちは3時間の講演中、そのほとんどの時間を、茘枝をむき、食べ続けて過ごしたのである。

漢方の考えで南方でとれるフルーツのほとんどに「体を冷やす」作用があるといわれる中、茘枝は逆に体を温める「熱」の食べ物といわれている。もちろん「節度を保った数」であれば、血行がよくなるなどの効能を期待できるが、食べ過ぎると体に熱がたまって危険らしい。

以前話を聞いた中国人の中医(漢方の医師)によると、血行がよくなりすぎると「血が急にたくさん流れ込むため、心臓に負担がかかる」とのことだった。そういう常識を踏まえた香港人の友人がいう「茘枝を健康に留意して食べるときのコツ」、つまり「節度を保った数」は、一度に10個である。

「熱が溜まるんだぞー。危険だぞー」とかいいながら、「茘枝品賞會」では参加者全員がひとりにつき20個や30個は軽く食べている。品賞會のお知らせには「どうやったら茘枝による『熱気』(いっへい=体にたまった熱)をとりのぞくことが出来るか」なんて項目もあったので、実はきちんと説明されていたのかもしれない。注意深く聞いていたつもりだったが、なにしろ全部廣東語による講演。茘枝を貪り食ってる間に、聞き逃してしまった可能性もある。あるいは中国茶に「体を冷やす」作用があるので、それでチャラだったなんて落ちかもしれない。

わたしと友人は個人的にちょっとだけ気を使って、その後体を冷やす効能のある龜苓膏(くゎいれんこう=亀ゼリー)などを食べてみた(正確にいうと、友人はそのことを今もたぶん知らない)。

その夜も翌日も、特になんということもなかったけれど、それは龜苓膏が効いたからか、「廣西雲緑」(ごんさいわんろっ)や「政和白牡丹」(じんうぉーばっまうだん)という中国茶がよかったのか、それともそこまで気遣う必要はまったくなかったのか実際には不明である。とにかく、しやわせな一日であったことだけは確か。

今年はそろそろ終わりですが、この時期に香港へ行く機会のあるラッキーなしとは、ぜひ糯米磁にトライを。ただし「糯米磁」と書かれたものを買ったからといって、必ずしもそれが「糯米磁」であることは確実ではなく、食べてみて種が大きかったり実がぱんぱんしてなかったら、それは残念ながら「なんちゃって」。

実際には、その可能性のほうが大であります。実際にプロでもすべての見極めはむずかしいとのことで、なんだかそんな「食べてみないとわからない」ギャンブル的お楽しみも、実は茘枝の人気をさらに高めてる理由のひとつな気がするのでありました。

※糯米磁の「磁」は、ホントは米へんが正解。わたしのPCで書くと、米へんの字が出ないのでこの字で代用してます。廣東語での「音」は同じでありますから、この程度間違いて書いたところで、現地のしとからどーこーいわれるとか、わからないとゆーことはありませんのでご了承くださいまし。

※7月23日(月)に「おうちでアジア おやつ」(青春出版社/共著)を出版しました。わたしが担当しているのは「マンゴープディング」や「カスタードタルト」「杏仁の甘いスープ」「お豆たくさんのお汁粉」など香港のおやつと、台湾の「ピーナツとあずきのお汁粉」。おやつエッセイとレシピを書いています。絵本のような、ちびっこくてかわいい本です。ぜひチェックしてくらさい。




写真左上から右下へ。表面がフラット気味なのは「糯米磁」。わたし的研究成果によると、「糯米磁」は小ぶりのものが多く、街で見かける大きく立派なやつは「なんちゃって」率が高い。

「糯米磁」をぷるっとむくとぱんぱんしていて、種はこんなにちびっこい。光のせいだけでなく、果肉はほんのりクリームがかった半透明。

「桂味」は特にゴツゴツした皮が特徴なので、わりとわかりやすい。新鮮なものは、ゴツゴツが痛いほど硬い。

果肉が白い半透明で、すごくジューシィな「桂味」。やはり、種はちびっこ。




「糯米磁」が買える店

街の果物屋さん

住所: 香港のどの街にもあります。
住宅街そばの果物屋さんは、新鮮な茘枝の山盛り率が高いです。

日本のように「高級果物専門店」などはありませんので、街角の小さな果物屋さんや、街市の果物売り場などで楽しいギャンブルを。

新鮮かどうかは弾力と皮の色つやで確認。大きく立派な茘枝より、小ぶりで貧相に見えるほうが「糯米磁」に当たる可能性高し。けど、これはあくまでわたし的目安です。

おことわり
※糯米磁の「磁」は、ホントは米へんです。
※カッコ内のひらがなは、廣東語をわたしの耳に聞こえた発音で表記しています。語尾の微妙な「k」「t」「p」などは、てけとーにやってます。また廣東語には9つの音があって、このまま読んでもまず通じません。そのへんは、どうぞご了承くらさい。



before  back number list  next  new aic  home page

copyright(c) 1997-2003. USHIJIMA, Naomi all right reserved.