「亜細亜くいだおれ」 September 04, 2001
塩コレ

牛嶋さんのイラスト 牛嶋 直美
ウシジマ・ナオミ

からだの組成の87%がチューカでできているちゅーか。残りの13%はタイ、ベトナム、インド料理でできてるちゅーか。
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「塩をたくさん集めてる人」というテーマで取材を受けた。

そういわれてみれば無類の塩好き。番組のリサーチャーから改めて「何種類持ってますか」と聞かれ、台所に行って数えてみたら、塩専用のガラスポットに入れてるのが30とちょっと。普段はこれらを適宜使い分ける。ただし塩ストックの引き出しには、まだ開けてない袋があと10個くらいは軽くあるから、たぶん、その数40はゆうに超えているはずだ。自分でいうのも何だが「そのくくり限定」なら、確かに取材する価値はあるのかもしれない。

いざインタビューされる段になり、担当ディレクターからの「なんでこんなに集めているんでしょう」という問いに、うーむと考え込んでしまった。そんなの、ぜんぜん、まったく覚えてない。

東京のスーパーや百貨店で簡単に手に入る塩は、ここ2、3年でその種類が驚くほど増えた。たぶん、うちのコレクションもそんな世俗的状況に比例して日々数が増えてきてるはずだから、すごく数が増えたのはもしかしたらここ数年のことなのかもしれない。けど、ずらりと台所に塩ポットが並ぶこの状況が、うちではすでにもう何年も当たり前になっているわけで、いきなりその理由を教えろといわれたところで、なんと説明したらいいのだろう。

興味を持ち始めたのは、本当にもう覚えてないほど何年も何年も前なのである。だから例えば比較的凝り性のわたしが、旅行や出張先で気になった塩をちびちび買い集めていったとして、年に6種類も買っていたら7年たてば自動的に40種類だ。海外のお土産で買ってきてもらった塩もあるし、だからいきなりこんな状態になったんじゃないんだよな。やっぱり。

友人も心得たもので、そんなことをしては重くて重くてたいへんだろうといつもその気持ちにまず感謝をするのだが、沖縄に行けば市場で塩を、雲南省へ行けば白像印のカルシウム塩を、ポルトガルからはお洒落な麻袋入り海塩を、ありがたいことに「お土産に」と買ってきてくれる(ただし、ときにはそれが塩でなく、醤油だったりお米だったり酢だったり砂糖だったりすることもある)。そうやって、長い時間とさまざまなきっかけで、ひとつひとつじんわりと増えていくわけだ。

アジアでわたしがいちばん気に入っているのが韓国の「竹塩」。3年もの以上の太い竹の中に海塩を詰め込み、黄土でフタをし、松の木の薪で灰になるまで焼く。それを、なんと9回も繰り返す。基本的に食用というより「薬」として使われているためか、わたしが知っている塩のなかでダントツ高価である。

ソウルの美容関係を取材中に知り、美顔マッサージに買ったため最初はお風呂場に並べていた。これがじつは水を含むと「ぷんっ」と硫黄臭があっておもしろく、ある日ぺろりとなめてみた。なんか、すごい、複雑な味である。試しに料理に使ってみると、これがものすごく具合がいいことに気づき、置き場はその日から台所へ移動することに。

その昔、中国には皇帝のための塩田が福建省にあったそうだ。広大な敷地に陶板を敷き詰め、満潮時に深海から汲み上げた海洋深層水を撒き、天日で3日間干して結晶させ、さらにワラをかけて1年間熟成させる。それとまったく同じ製法で作られた「海の皇帝」は、ミネラル分が豊富なためか舌のあらゆる部分を刺激し、うっすら甘みさえ感じる。「塩って深い」と心から思った。ある意味、深くハマることになった、きっかけの塩である。

日本橋の百貨店で食品売り場をふらふら流してたときに見つけたのが、カマルグの塩。南仏プロヴァンス地方を取材で訪れたとき、カマルグの海岸へフラミンゴを見にいく途中、白く広大な塩田を見た。その白いつぶつぶは怖いくらいうず高く積まれ、それは塩田というより塩山という印象。生まれて初めて見る光景にひたすらびっくりした。いたずら心で塩に触りたくなりすぐ近くまで行ってみたが、塩田の際のあぜ道には深い堀があって、残念ながら野望は果たせなかった。そんな記憶が、塩売り場でいきなりぐるぐる蘇る。あまりに懐かしくうれしくなって、即効でその塩を購入した。

悲しいことに、香港には自慢できる塩がない。スーパーでは、種類豊富な砂糖と異なり、素朴な袋に入った精製塩と粗塩の2種類が基本。しかし、街市(がいしい=市場)では、今でもときどき昔ながらの量り売りをしていて、これがものすごく楽しい。以前、長沙灣(ちょんさーわん)でそんな古いスタイルの乾物屋を見つけ、「粗塩、半斤ちょうだい」(半斤=300g)といったら、ビニール袋にがさっと入れ、ぶら下げられるようにワラでぐりぐりとしばってくれた。これは名もない「香港の塩」として、今も台所に並ぶ。

取材ではもっともらしいことをたくさんいってしまったが、結局は味より「思い出」なのかもしれない、わたしの塩コレクションである。




わたし的香港の「塩料理」は、潮州菜の揚げ豆腐「炸普寧豆腐」(じゃーぽうにんたうふー)。カリッと揚がったアツアツを、水塩にしみしみさせて食べる。舌と喉の火傷にご注意くらさい。




香港で「塩」な料理を食べるなら

創發潮州飯店(ちょうふぁっちうちゃうふぁんでぃむ)
住所: 香港九龍城城南道60至62號地下
電話: 2383-3114 営業時間: 11:00〜24:00

「塩を使い分ける料理を考えて欲しい」といわれたとき、最初に思い浮かんだのが潮州菜(ちうちゃうちょい=潮州料理)の「炸普寧豆腐」。

なぜか先方の要望にそぐわず、残念ながらばっさり却下されてしまったのですが、これ、むちゃくちゃおいしいのでここで紹介することにしました。いってしまえば単なる揚げ豆腐なのですが、食べ方がふるってる、というか「塩」してるのです。ニラとタカノツメ入り水塩に、豆腐をしみしみさせてあんぐり。浸透圧で、水塩がだんだんニラ風味になっていぐのがこれまた美味で。この料理の豆腐は、なぜかほとんどが三角形であります。

思えば「漁師料理」が発祥の潮州菜。凍花蟹(とんはーはい)に代表される打冷(だーらん=塩茹でして冷まして食べる魚介類のこと)など、やっぱ塩が基本なわけですなーとか思った次第。

おことわり
※カッコ内のひらがなは、廣東語をわたしの耳に聞こえた発音で表記しています。語尾の微妙な「k」「t」「p」などは、てけとーにやってます。また廣東語には9つの音があって、このまま読んでもまず通じません。そのへんは、どうぞご了承くらさい。



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