| 「亜細亜くいだおれ」 September 18, 2001 | |||
| どろどろお粥がんまいー |
|||
| |||
お粥は粘りを出さないよう、決して土鍋をかき混ぜないで作る。 雑誌で読んだか、テレビか、それとも料理本だったか。いや、もしかしたらそれよりずっと前に、親から聞いたのかもしれないけど、とにかく気づいたら、わたしの中でそのジョーシキはとても当たり前だった。 だから、香港の粥麺専家(ちょっみんちゅんがー=粥と麺の専門店)で、初めてどろどろのお粥を見たときはかなり戸惑った。店主から、「これが廣東風粥です」といわれても、鍋をぐるぐるかき混ぜる様子はやけに乱暴に見えるし、邪道だとさえ思えた。だってこれ、まるで重湯だし。確か兄が昔、盲腸の手術の後に食べてたやつだ。 ところが、実際に食べてみるとそのどろどろは、とても繊細な味がした。なんか意外。重湯なのに、深みと、なぜかコクさえある。しっかり味がついているせいか、舌ざわりは気にならないどころかやたらうまくて、それはレンゲがさくさく進んでしまうほどだった。ふーん。単なる塩味だけでこんなになるのかな。それとも具のせい? よくよく聞いてみると、作り方に随分と工夫があった。しかも、すごい手間と時間をかけている。 灣仔(わんちゃい)の昌記(ちゅんげい)という店では、3種類のタイ米をブレンドし、豬骨(じゅうくわっ=豚骨)と腐竹(ふーちょっ=湯葉)を加えて作るとのことだった。もちろん、これみよがしにぐるぐるかき混ぜて粘りを出しながら炊くので、「ああ、粘りが」と、見ているだけで少し辛い。小心者で保守派の日本人としては、はらはらして「それ違うだろ」と途中で突っ込みを入れたくなるのだ。 4時間も、とろ火にかけて炊くという。だから、最終的に腐竹は溶けてその姿はなく、煮込んだ後の豬骨の出汁がらも全部取り除いて客に出すわけで、その仕上がりはやっぱし単なる白いどろどろの重湯状態。しかも米粒がばらばらに割れている。見た目と味には大分差があるのね、とか頭では理解しながらもなんだか複雑な気持ち。そもそも、お粥に「コクがある」なんて考えてもみなかった。 香港人の友人から聞いた「本当の廣東粥」の作り方は、さらに複雑だった。 (店ごとに店主の好みでブレンドした)米を洗って花生油(ふぁーさんやう=ピーナツオイル)と塩をまぶした後、皮蛋(ぺいだん=ピータン)をぽろぽろにくずして混ぜ合わせておく。鍋に米、水、白果(ばっぐぉー=ギンナン)、豬骨、腐竹を入れ、ひたすらかき混ぜながら数時間煮込む。そうしてじっくり時間をかけて出来上がったお粥は、粥底(ちょっどい=基本の粥)として使われる。あくまでそれは、ベースの粥でしかないのだ。 つまり、ここまでして作るものが廣東風の「白粥」。店のお粥は、これをベースに具を加えて仕上げる。なんとまあリッチで大変なお粥なのだろう。 各店ごとのマル秘レシピがあって、どこの店でも全部は決して教えてもらえないけど、米のブレンド、出汁の組み合わせなど、お粥で有名な店には必ずいくつかの工夫がある。白粥に見えて、実は舌のいろんな部分の味蕾を刺激する、複雑で味わい深い廣東粥。実はこの他にも、日本の粥に近い米の形が残るもう少し水っぽい潮州粥や、単純な白粥とを食べ分ける順徳風など、同じ廣東粥と一口にいってもその差は地方によってまたいろいろ。種類は限りなく出てくる。 どんなに食べても調べても、知るごとますます深くなる廣東料理。どうにか極めたいと思っても、その道はますます遠くなるばかりである。 七喜の冬槙褐{堡仔粥(どんくーわっがいぽうちゃいちょ=土鍋入り干しシイタケと鶏肉の粥 ※堡は、本当は保の下が火)。この素焼きの土鍋入り粥は32香港ドル。小食の人は、お碗入りの方で十分。上にかかってるのは七味ではなく、大地魚(だいでいゆい)というヒラメの干物をパウダー状にして蝦子を混ぜたもの。いちいち手作りでオリジナリティびしばしなので、聞くのも書くのもたいへん。
|
copyright(c) 1997-2003. USHIJIMA, Naomi all right reserved.