「亜細亜くいだおれ」 October 16, 2001
ちんちん電車でゆく香港の田舎

牛嶋さんのイラスト 牛嶋 直美
ウシジマ・ナオミ

からだの組成の87%がチューカでできているちゅーか。残りの13%はタイ、ベトナム、インド料理でできてるちゅーか。
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香港には、魅力的な公共交通機関がたくさんある。

・山頂纜車(さんてぃんらむちぇー=ピークトラム)
・天星小輪(てぃんしんしうりん=スターフェリー)
・電車(でぃんちぇー=トラム)
・巴士(ぱーしー=バス、ダブルデッカー)
・小巴(しうぱー=ミニバス)
・半山區電動樓梯(ぷんさんこいでぃんどんらうたい=ヒルサイド・エスカレーター)
 ※通勤に使う方が多いので、交通機関に数えました。
・地鐵(でいでぃっ=地下鉄 ※MTRともいう)
・飛翔船(ふぇいちょんしゅん=ハイドロフォイル)などなどなどなど。

そのほとんどのルートは、中心地までの乗り入れ。さらに、ほぼすべての乗り物に八達通(ぱっだっとん=オクトパスカード)というプリペイドカードが対応しているため、慣れぬ通貨での半端な運賃の支払いや、釣りが出ないシステムに戸惑うこともない。たとえ初めての旅行者でも、だから短時間で簡単に、いろんな乗り物を楽しむことができるのだ。急勾配の坂道、どでかビル群、オープンエアのカフェ、街市(がいしい=市場)、海、高層アパートの上階の部屋の中など、車窓からの景色はどれもむっちゃ個性的。これも香港ならではの旅の醍醐味である。

しかし、中には巴士か小巴に1時間以上揺られ、新界(さんがい=香港の北部郊外)まで行かないと乗れない乗り物もある。それが輕便鐵路(ひんびんでぃっろう ※以下、輕鐵=ひんでぃっ。LRTとも略される)。

新界西部から北西部にかけた、屯門(ちゅんむん)、天水圍(てぃんそいうゎい)、元朗(ゆんろん)あたりをぽこぽこ走るそのちびっこ電車は、世田谷線や江ノ電を思わせる素朴な風情がある。便利だがあくまで「ごみごみ・ぐしゃぐしゃ・がやがや」と落ち着かない、超都市部とはまるで趣の違う田舎町的のどかさを持つ。

輕鐵の駅はほぼ無人だが、罰金が厳しいこともあり、見る限り無賃乗車するものはナシ。もちろん、支払いには八達通が使える。

わたしは、このかわいい輕鐵で走り抜ける風景が大好きである。

中でも元朗(ゆんろん)は、地味ながら個性的でおいしい店が連なり、朴訥な人が多く、ちょっとダサめで、ひたすらお気に入りの町だ。今だ低く古いビルを多く残すので、歩くとき目に入る空の面積が広いのも魅力。町中にじいちゃんばあちゃんがあふれ、生活臭をびしばし感じる。どうにかぐるっと歩けてしまう、ほどよい距離感がまたよく、特に目的もなくふらっとでかけるのに、いい感じの温度なのである。

巴士で5分も走れば、今だ周囲には畑や山が広がるのどかな景色を残すが、輕鐵が走る大通りにはシティバンクがあり、ファッションビルがあり、24時間飲茶ができ、また尖沙咀(ちむさあちょい)や中環(ちゅんわん=セントラル)など中心地とは巴士や小巴で終夜ずっと繋がるという、なかなかクールな都会機能を併せ持つ。

さて、わたしの元朗歩きのスタートは、輕鐵を大棠道(だいとんどう)駅で降りることから始まる。

まず、目の前にある恒香餅家(はんひょんぴんがー)で、元朗名物の老婆餅(ろうぽうぺん)を買い食い。お行儀悪く、むぐむぐしながら雑踏を歩くと、なぜかひどく懐かしい気持ちになってくる。香港へ行くと必ず大またの超早足になって「そそんなに急がなくてもいいのでわ」と、友人から笑われるのだが、この町を歩くときだけは不思議と歩調がゆるむ。

老婆餅は、求肥に似た冬瓜あんが入ったパイ。中途半端にやさしい甘さ、もっちりした素朴風味の冬瓜あん、指にちょびっと力を入れるだけで壊れ、セーターをパイくずまみれにする生地のほろほろ加減、どれをとってもひたすら好みの味と食感。店の奥にずんずん入って「要一個老婆餅(いうやっこ ろうぽうぺん=老婆餅1個ちょーだい)」と3ドル渡せば、でけたてほかほかの老婆餅を無造作に渡してくれる。

あとは、ただひたすら歩くのみ。好奇心がビビビと刺激されれば本能にまかせてガンガン店に入り、言葉が通じなければ筆談で交渉し、とにかくあらゆる路地へ入り込んでいく。大通りに戻ればなんとかなるので、迷ってもまったく気にすることはない。そして、そんな町歩きで見つけたお気に入りの店がある。そこは潮州(ちうちゃう)風の麺専家(みんちゅんがー=麺専門店)。じつは、この夏久しぶりに元朗をぷらぷらしていて思い出した。昔、ふらっと元朗へ出かけてはよく通った店である。

好きなメニューは、墨丸魚餃麺(まっゆんゆぃがうみん ※墨魚丸魚皮餃麺の略)。

これは、墨魚丸(まっゆいゆん=イカ団子)と、魚皮餃(ゆぃぺいがう=白身魚のすり身で作った皮の餃子)をのせた麺。サイドディッシュに炸魚皮(じゃーゆぃぺい=川魚の皮を揚げた物)を頼み、麺の底に沈めてスープをしみしみさせて食べる。野菜が食べたければ油菜(やうちょい=茹で野菜)を追加する。今回友人から「どうやってこの食べ方を覚えたのか」と聞かれたが、たぶん、どこかの店で誰かがやっていたのを真似したのが最初だろう。気がついたらすこし進化していて、これがわたし流になっていた。

外国人で言葉が通じなくても、店の人はおおむね親切。隣のテーブルを見ながら指差せれば注文は簡単。店には廣東語のメニューしかないので、とりあえず初めて訪れて名物を、というなら墨魚丸・魚皮餃・魚皮扎(ゆぃぺいちゃっ=魚のすり身で具をくるんと巻いてある)という3種の具がのった「潮州三寶麺」(ちうちゃうせいぽうみん)、これに豬肉丸(じゅうよっゆん=豚肉団子)をのせた「潮州四寶麺(ちうちゃうせいぽうみん)」などを。麺なしで頼むことも可能で、その場合は「淨潮州三寶」(じんちうちゃうさんぽう)や「淨潮州四寶」(じんちうちゃうせいぽう)といえばわかる。

ぐるぐる後は、街市を冷やかしたり、さらに亀ゼリーを食べたり、季節の花や果物を買ったり、また雑貨屋でホコリまみれのキッチン用品を探すのも楽しい。下町ならではの、伝統的な掘り出し物が見つかることがあるのだ。元朗は、中心地に比べるとずっと時間の流れがゆっくりしているため、地元の人たちにもなんだかすごくゆとりを感じることが多い。

帰りは、佐敦(じょーどん=ジョーダン)や旺角(うぉんこ=モンコック)行きの小巴に飛び乗るか、快速巴士でどこかのMTR駅まで行くのがいちばんてっとり早い。その辺りまで戻れば、中心地のホテルまで帰るのは簡単。ただしいずれの場合も、軽く1時間は冷房大サービスのさぶい車内で過ごすことになるので、元朗を訪ねるとき、いやそれ以前に公共交通機関体験時(トラム以外)には、絶対に上着をお忘れなきよう。




写真左:これが老婆餅。冬瓜あんの食感は求肥風で、むちむち系がすきな人におすすめ。持って帰るとボロボロになるし支店は他にもあるので、ここではあくまで「あったかいでけたてを買い食い」がおすすめ。

右:手前が墨丸魚餃麺、右奥が炸魚皮、左奥は腐乳生菜(ふーゆぃさんちょい=スープで茹でたレタスに、豆腐を塩漬け発酵させた調味料のソースをかけたもの)。




イカ団子麺が食べられる元朗のお店

新麗園潮州粉麺餐廳 (さんらいゆんちうちゃうふぁんみんちゃんてん)
住所:元朗阜財光華中心46號地下
電話:2473-9933

墨魚丸(まっゆぃゆん=イカ団子)、牛丸(あうゆん=硬くて弾力がある牛肉団子)、魚皮餃(ゆぃぺいがう=魚のすり身を皮にした餃子)などのまるまる類や、潮州風のお惣菜が人気の店。基本的に麺専門店だが、三文治(さんまんちー=サンドイッチ)やお茶だけでも十分長居できる、おやつ対応の店でもある。

ちなみにわたしがすきな墨丸魚餃麺(まっゆんゆぃがうみん)は、イカ団子と魚皮の餃子入りの細麺で19香港ドル。河粉(ほーふぁん=米粉の平麺)も美味。その場合は、最後の単語を「麺(みん)」でなく「河(ほー)」にします。それからトッピングがいずれかひとつだけをのせたものは、17香港ドルでした。炸魚皮は、揚げてあるので泥臭さはまったくなし。まるで揚げ煎餅のようなスナックを食べてるよーです。ぜひお試しあれ。

おことわり

※1香港ドル=約15円です。
※カッコ内のひらがなは、廣東語をわたしの耳に聞こえた発音で表記しています。語尾の微妙な「k」「t」「p」などは、てけとーにやってます。また廣東語には9つの音があって、このまま読んでもまず通じません。そのへんは、どうぞご了承くらさい。



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